第33話 人の命の軽い世界


「それで、俺が意識を失っている間に何が起きたんだ?」


大方見当はつくが念のためアリスに聞いてみた。


「ハンスさん達は最初、リヒト様が善戦して居る時は『このまま待とう』って言っていたんですが、リヒト様が怪我をした瞬間『役立たずの冒険者だ! 折角、薄汚い獣人とも仲良くしてやったのにこれか……獣人が何時まで馬車に乘って居るつもりだ? 気持ち悪いーーんだよ!』て突き飛ばされちゃいました」


酷いな。


「それで……」


「オーガロードは最初、アリスを狙って来たのですが、アリスが捕まらないと解かるとそのまま街道沿いを走っていっちゃいました」


街道沿い?


「それじゃ、ハンスさん達まずいんじゃないか?」


他に誰も居ないからメリッサが念話でなく普通に話してきた。


「別に問題は無いですわ! リヒト様はE級ですから、オーガロードなど到底勝てる相手じゃありませんわ……それに態々アリスを突き飛ばして逃げたのですから……非は向こうにありますわ」


まぁ金は前金で貰っていたけど……此処から馬車が無いのが痛いな。


ギルドへの報告は……正直に話すしかないか。


あとは信じて貰えるかどうかだ。


「取り敢えず街道沿いが安全かどうか見てみるか……」


俺達は街道沿いを警戒しながら先に進んでいった。


◆◆◆


暫く進むと、人混みが出来ていた。


しかも近くには見慣れた馬車がある……あの馬車はハンスさんの馬車だ。


オーガロードに追い付かれたのか……そう思ったが......


違ったようだ。


ハンスさんとメアリーさんは刃物で殺されていた。


しかも、メアリーさんは服を引き千切られてほぼ裸の状態で殺されていた。


その近くには……あのオーガロードを擦り付けて逃げた三人の冒険者が縄で縛られ転がっている。


その近くに居るのは騎士みたいな集団だった。


「君は、この人達を知っているのかい?」


暫く見ていると、金髪のイケメン騎士が俺に話掛けて来た。


「実は……」


俺はありのままの真実を話した。


イケメン騎士は手を顎にあて……


「成程、どうしてこうなったのか、ようやく意味が解った」


捕らわれた冒険者3人組はCランク冒険者1人にDランク冒険者2人だったそうだ。


ハンスさんを殺し、メアリーさんを犯し殺している最中に移動中の騎士達が偶然通りかかったという。


だが、CランクやDランク冒険者は冒険者としてはそこそこの収入があり、こんな野盗の様な事なんかするとは考えられない。


しかも、三人は金貨を何枚も持っていたので、何故その状況で態々、只の農民を襲ったのか、その意味がどうしても解らなかったそうだ。


女を犯すのが理由だとしたら、もっと魅力的な女性を狙うだろう……そう思っていたそうだ。


「それでなんでこんな事に」


「冒険者にとって擦り付けは重罪だ! それがバレるのを恐れて口封じの為に野盗に襲われた様に見せかけて殺した。そんな所だろう!どっちみち、彼等はもう死刑は確定だ!」


強姦殺人をしたんだ、当たり前と言えば当たり前だ。


尤も、一般人が居るのに擦り付けをした時点でほぼ、重罪は確定だそうだ。


先に逃げていったから馬車の待ち伏せは可能だな。


擦りつけがバレるのを恐れて待ち伏せして口封じ......そんな所だろう。


ハンスさん達には悪いが『運が良かった』


もし、ハンスさん達がアリスを突き飛ばすような意地悪をしなかったら、アリスも一緒に殺されたかも知れない。


また、彼等が『良い人だったら』更に俺が追加されていた。


結果だけで言うなら『悪人』で良かった。


嫌な話だが......そう言う事だ。


「それじゃ、これで俺達は失礼します」


アリスとその場を離れようとしたが......


「待ちたまえ! 出来る事ならもうすぐ帝都だ!一緒に来て調書の作製に協力してくれないか?」


「え~と……」


「勿論、我々の馬車に載せてあげるよ!」


「お願いします!」


騎士たちに囲まれ馬車で移動……願ったり叶ったりだ。


「お~い! 証言してくれる証人がいる! そこの犯罪者は必要なくなった! 処刑してくれ!」


「はっ! 」


「ひっ」


「た、た助けて……助けてーーっ」


「ああっああーーーっ」


騎士は抜刀すると一瞬で三人の冒険者の首を跳ねた。


Dランク冒険者は1人前Cランクと言えばかなりの腕前の冒険者だ。


それを人数が多いとは言え捕縛し、拘束されているとはいえ一瞬で首を跳ねる騎士。


そんな騎士が魔族に敵わないからこその召喚魔法。


そんな魔族と生徒達は戦うのか……


まぁ、能力が無い俺が考えても仕方ないな。


「この場で処刑……」


「ああっ、途中で何かあっても困るからね。どうせ死刑確定なんだからこうした方が無難なんだ、平民の断罪の権利が騎士にはある……こうして首だけ運んだ方が何かと便利だ……もしかしてこう言うのを見るのは初めてかい?」


「ええっ」


幾ら悪人でも人が死ぬのを見るのには抵抗がある。


「黒髪、黒目と言う事は、異世界人かい?この世界じゃよくある事だから気にしない事だ」


「そうですね……」


この世界では人の命は軽い。


あらためて良く解った。













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