第32話 その時奇跡が起こった!
「それじゃ、食事も任せて下さい!」
「「是非お願い致しますっ!」」
俺の作れる料理は前の世界の料理。
一人暮らしが永かったから、まぁ作れる。
お子様料理……オムライスやハンバーグ、チャーハンとかだな。
だが、それがこの世界では新鮮だったらしく、食事は向こうが用意してくれる筈だったのに……俺が日に一度食事を作る事になった。
尤も、材料とは向こう持ちでわずかだが手間賃が貰える。
とは言え、今回の旅は自分が食材を用意したわけじゃない……
アリスは二人と一緒に楽しそうに話しながら食事を待っている。
ちなみに旦那さんがハンスさん、奥さんがメアリーさんだ。
さぁ、どうするかな……
『リヒト様、近くの森が騒がしいです……ちょっと見てきます』
令嬢姿のメリッサが俺に突然そう言ってきた。
確かに森の少し離れた場所が少し騒がしい気がする。
「ちょっとリヒト様に報告してきます!」
そう聞こえたと思ったらアリスがこちらに小走りしながら来た。
「リヒト様、森から複数の人の気配と魔物の気配がします……」
なんだ、そんな事か……
それなら、きっと冒険者が魔物の討伐をしているんだろう。
気にする必要はないな。
「多分、冒険者が討伐をしているんだろう……気にしなくて良いんじゃないか? 一応、メリッサも見に行ってくれているしな」
「それなら、安心ですね」
パタパタと歩きながら今度はゆっくりアリスは二人の元へ戻って行った。
冒険者が魔物を討伐している……それだけの事だよな。
暫くしてメリッサが帰ってきた。
「どうだった?」
『森の少し離れた場所で冒険者がオーガを狩っていました! 冒険者が押していたし大丈夫でしょう』
「そう、それなら安心だ!」
ある物で作れるのはクリームソースのオムレツとパンケーキとスープだ。
これで充分だよな......
うん!?
おかしい……俺でも分かる位に騒ぎが伝わってくる。
すぐそこで声が聞こえているような………
まずい……こっちに向かってくる。
「ぎゃぁぁぁぁーーー」
「ハァハァハァ……少しでも早く逃げないと……あっ」
「駄目だ......」
三人と俺と目が合った。
その瞬間、ニヤリと笑った三人の冒険者が俺の傍を通り過ぎていった。
嘘だろう……赤いオーガが見える。
確か……赤いオーガは……オーガロードか……
4メートルくらいの筋肉隆々の鬼の様な生き物が俺に迫ってきた。
ヤバい……俺だけならミステの力で逃げられる。
だが、逃げたらアリスやハンスさん達は殺される。
「ミステ悪いが逃げるのは無しだ! メリッサ悪いけどアリスやハンスさん達に逃げるように伝えてくれ!」
『リヒト様は!』
「俺は此奴を食い止めるから……急いで」
馬鹿な事になった……
仕事は仕事だ、危なくてもやらない訳にはいかない!
「グワァァァッ!」
オーガロードが巨大な棍棒を振りわしながら俺に近づいてきた。
「ハァハァッ これは躱すのが精一杯だ……」
大体俺はオークを1体狩れるのが限界…….
オーガですら無理なのに……
後ろを見ると三人はすぐに馬車に乗り込んだ。
そうだ……それで良い……そのまま逃げて……嘘だろう。
なんで待っているんだよ。
クッ、やるしか無いのか。
棍棒を躱しながらミステで斬りつける。
「グワァァァ」
俺は未熟だ。
だが、このミステは『神剣』だ。
俺の未熟な技量分はミステが補ってくれる。
「私も加勢します!」
そう言うとメリッサがナイフを持ちオーガロードに斬りつけていく。
「ミステ! メリッサ! 頼んだぞ!」
馬車は逃げていない。
良い人達なんだな……
俺が頑張らないとアリス達が危ない。
『ふっ我は神剣だ、だが逃げずに良いのだなっ!』
「援護は任せて下さい!」
オーガロードはブンブン棍棒を振ってくる。
辛うじて躱しているが、一発でも当たれば終わる。
「グワァァァァァッッ! ぎゃぁぁぁぁーーっ」
上手くメリッサのナイフが右目に刺さり、オーガロードの片目を潰す事に成功した。
やった……あと少しで……
「えっ」
油断した……
俺の頭にオーガロードの棍棒が振り落とされた。
グチャリ。
鈍い音が聞こえ頭に強い痛みを感じた。
そして目の前が真っ赤になり俺の力が失われていく……これで、俺を置いて逃げてくれるだろう。
嘘だろう……死に掛けの俺が見た物は、アリスを馬車から突き飛ばし走り去る、ハンスさんの馬車だった。
俺は......人を見る目が無かったのか......最悪だ。
◆◆◆
おかしい……俺は死んだ筈だったのに……
何で生きている。
そうだ……アリス、アリスは何処だ。
近くにメリッサが居る。
「メリッサ、アリスは……アリスは何処だ?」
『すぐそこに居ますよ』
「リヒト様ぁ……良かった、アリス死んじゃったと思いました……良かったです……本当に良かったです……うっうっうえぇぇぇぇぇーーん」
「無事で良かった……」
『あのリヒト様、アリスは獣人ですよ! 短距離なら馬より速いんですから1人で逃げるだけなら簡単です』
「アリスは速いのです!」
ふんすとアリスはガッツポーズをとっていた。
「それでオーガロードは?」
「アリスが逃げちゃいましたから、そのまま街道沿いを走っていきました」
「大丈夫かな」
『ハンスさん達は馬車ですから捕まらないと思います……ですが、リヒト様が気にする必要は無いですわ。 オーガロードを相手に逃がしたのですから義務は果たしていますわ』
「そうだな……」
アリスを態々突き飛ばして逃げた……悪意が無いなら連れて逃げるだろう。
アリスと仲良くしていたのは護衛をして貰いたいが為のポーズか?
そんな相手の事を考えてヤル必要は無いだろう。
しかし……俺はなんで生きているんだろう……
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