第31話 帝国へ
「ガンダール帝国に行きたいのですか? 行けば良いじゃないですか? 子供じゃあるまいしそんな相談しなくても……」
なんだか哀れみの顔で見られた。
「俺は転移者なんだ、まぁ能力が低くて碌な説明も無く追い出されたんだ……だからこの世界の事をあまり知らないんだ。悪いけど、教えてくれないか?」
クソッ……お金は真面にくれたのに知識は全く教えてくれなかった。
だから、こんな苦労をする。
「あの……異世界人なのに基礎教育もして貰えなかったんですか?」
「え~多分はい……基礎教育ってなんですか?」
ギルドの受付嬢は更に憐みの顔になり……話を続けた。
「異世界人がこの世界に来た時は、例え魔族との戦いに参加しなくても1か月程度、この世界の基本を教えてから外の世界に出す……そういうルールがあるんですよ! 絶対ではないですが、この世界の暗黙の了解です」
「そうなんですか?」
そんな事初耳だぞ。
「まさかと思いますが、支度金も貰わなかったんじゃ……」
「いえ、金貨10枚程頂きました」
「え~と、それ騙されていますよ! 相場は金貨25枚、1年分の生活費が基準ですよ」
「ですが、お城に残った場合は、適正を見て文官や兵士、騎士の道も開かれるとか、なにか希望があれば聞くとも言っていましたし、騙された感じはありませんでした」
「ハァ~それ典型的な王宮の手口ですよ……良いですか? 能力があれば文官や兵士や騎士になれるのは当たり前ですよね? 適性がなければ異世界人は身寄りが無く抗議できにくいからクビにすれば良い。他になにか特技があれば利用できるなら利用できる部署で使う……普通の事ですよね! ですが、金貨10枚だけでも貰って出て正解ですよ。多分、城に残ったら、能力不足を理由にそれすら貰えず追い出された可能性もありますから……尤も相場以下だからと言っても、相手が王宮では文句も言えないのは辛い所ですね」
なんだ、お金だけは真面にくれたと感謝したのが馬鹿みたいだ。
「そうですか……」
「それなら知識が無いのも納得ですね! ガンダール帝国へは乗合い馬車で8日間程、そんなに遠くじゃありません! 歩いて行くにしても15日間位あれば行けますよ! リヒト様の場合、ゴブリンでも狩りながら街から街へ移動すれば良いだけですね……冒険者なら普通に歩いて移動する場所です」
国と言うから勘違いしてしまうが、前の世界で言う程の大きさは無いんだな。
1日25キロ歩いて、15日間。
375キロ。
多分、東京から名古屋より少し遠い位か……
また、此処でも俺は誤解していたのかも知れない。
完全に俺の勘違いだ。
「そうですか……」
「あの、また勘違いされているかも知れないので、お伝えしますが、国は恐らくリヒト様の思っているよりは多分大きいです。 王都と帝都が交易の関係で近いだけです。逆に聖教国の聖都に行くのなら歩いて3か月位は掛かりますからね」
「教えて頂いてありがとうございます。ちなみに帝都への馬車代って幾ら位ですか?」
「多分、食事つきで1人銀貨4枚位ですね」
「教えてくれてありがとうございます」
なんだ、馬車を使ってもたったの銀貨8枚で移動できるのか……
それなら、すぐにでも旅立とうか……
「それから……忠告ですが、乗り合い馬車には獣人は基本的に乗れないので注意して下さいね」
「そうですか……」
此処でも獣人は差別されるのか……いや、嫌われているなら元から無理な相談だよな。
◆◆◆
「リヒト様ぁ~風が凄く気持ち良いですねぇ~ アリス馬車なんて初めてですぅ~」
「確かに気持ちいいな」
前の世界で乗っていたスーパーカブを思いだす。
なかなか速く感じる。
「いやぁ、格安で護衛を受けてくれてありがとうな……あのままだと護衛無しで帝国に向かわなくちゃならない所だったよ」
「いやぁ、こちらこそアリスを受け入れて貰えて感謝しているよ!」
「助かってるのはこっちさぁ~たったの銀貨3枚で受けてくれるんだからな……私らみたいな農民にとっちゃ獣人もなにも関係ないさぁ~ 私や旦那の住む場所は帝国の片田舎、獣人処か獣がうようよ居ますからね」
乗り合馬車に乗れないなら、誰かに乗せて貰えないか……そう考えていたら、帝都までの護衛依頼を冒険者ギルドの掲示板で見つけた。
価格が安いせいか、誰も受けたがらないようだった。
相場は大体銀貨6枚から金貨1枚の依頼、それなのに銀貨3枚だから受け手が居ない。
依頼人は帝国の若い農家の夫婦で、王都の市場で農作物を売り終わりこれから帝国に帰るのだそうだ。
そこで、アリスの同行に問題が無いならと、提案してOKを貰い受ける事にした。
向こうは安く受けて貰えて助かり、俺たちは本来は金がかかる馬車に護衛しながらとは言え無料所か金が貰えてWINWINの関係だ。
メリッサは勿論、傍に居るが……不信に思われるといけないので話さないで貰っている。
「ご主人様、前にゴブリンが2体居ますよ……」
「解った……直ぐに処分する。馬車を止めてくれ」
「はい、ただいま」
アリスは獣人だからか目と鼻が良い。
だから、見張りをお願いしている。
俺は馬車を下りて前方に走って行った。
「「ぐぇぇぇ?」」
俺は何もしていない。
俺を警戒していたゴブリン2体の急所をメリッサがナイフで馬車からの死角から刺した。
見えないって凄く便利だな。
俺は討伐証明になる左耳を削いでアイテム収納に放り込んだ。
護衛任務中でも討伐した獲物は冒険者の物だから、収入にもなってやはりこの仕事は……良い仕事だったようだ。
「ゴブリンは狩ったからもう大丈夫だ!」
俺はまた馬車に乗せて貰い空いているスペースに横たわった。
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