第9話 ホームレスナンパ

注意:ちょっと古臭い考えがあります。 この主人公の性格の一端なのでお許し下さい。


この世界に来て1週間が経った。


レベルが少しだけど上がり、仕事が少し楽になった気がする。


よく考えたら、この世界の人間が15歳でレベル1の訳が無い。


ジョブの恩恵もあるかも知れないけど、圧倒的にレベルが低すぎたわけだ。


それじゃキツイ筈だよな。


今の俺は……


神代理人(15歳) 巻き込まれた者

LV 3

HP 68

MP 41

ジョブ:魔法剣士

スキル:翻訳、アイテム収納(収納品あり)剣術スキル

エクストラスキル:若返り


こんな感じだ。


体感的には、土方仕事しても、ゴブリンの討伐をしても、ヒィヒィ言わなくなった。


ただ、やはり土方仕事は専用のジョブを持っている人には到底追い付けない。


それでも、この世界で言う人並みに生活出来る基盤は出来た気がする。


こうなると次に欲しいのは『恋人』だ。


俺の前の世界の人生では女の子と付き合うことは無かった。


いや、余り話した記憶も無い。


小学生から中学生は漫画や社会の影響なのか、俺の地域は『硬派』がブームだった。


特に中学生時代は長ランを来た先輩や長いスカートを履いた女先輩の影響で男女仲は良く無かった。


そうこうしているうちに両親が事故に遭い、俺は祖父母たちに引き取られた。


祖父母の家は裕福で無かったから中卒で働こうと思ったが……


『高校位は出ないと困るぞ』という祖父の勧めで高校に入学。


祖父は『気にしないで良い』と言っていたが、生活が苦しいのが解り、高校の時間以外をバイトに費やした。


到底、恋愛なんて出来る環境じゃなかった。


そして、高校在学中に祖父が無くなり、ますます生活がきつくなり、高校を自主退学し、就職を目指すも……中卒の学歴じゃ上手くいかずフリーター生活。


それから暫くして祖母が亡くなり……俺は天涯孤独となった。


学歴も無く、保証人になって貰える相手が居ない俺には碌な働き口は無く……ブラック企業に就職かアルバイト位しか働き口の選択は無かった。


結局俺は……保証人無しで雇って貰えるブラック企業の工場で働き始めた。


だが、休みも少なく、残業続きの生活は精神と体を蝕み……俺は退職せざるおえなくなり……そこからはまぁ転落人生だった。


殆どホームレス状態になっていた俺を拾ってくれたのが青誠学園の校長だった。


と言う訳でそこからは用務員人生……なにが言いたいのかと言えば不毛な人生を前は送ってきた。


だから、今度こそパートナーになる女性や家族が欲しい。


折角、異世界に来たのだから、今度こそ……やり直したい……


◆◆◆


そんなわけで俺は、今スラム街に来ている。


可笑しく思われない様に汚れたマントを着て。


何をしに来たかと言えば、恋人探しだ。


俺が小さい頃には曾祖父が生きていて、戦争後の貧しい時代の話を良くしていた。


その当時は食べる物も無く、生卵2個で売春していた女性も沢山居たらしい。


また、曾祖父が曾祖母を口説いたセリフが『一生食うに困らない生活をさせてやるから、嫁になってくれないか?』そういうセリフだったそうだ。


これは祖父も同じ意見だったが『よいか理人、嫁にするなら貧しい家から貰うんだぞ』そう良く俺に言っていた。


それは、貧しい家で育った娘は働いてしっかり面倒見ればちゃんと愛して貰えるし苦楽も一緒にしてくれるし、我慢強い。


裕福な女と結婚したらそうはならない。


そういう考えからだそうだ。


俺が前にいた日本は裕福になり、そんな時代じゃもう無かった。


この世界で安定した生活を送れるのはごく一握り。


そして冒険者は頑張れば稼げる反面、生活は安定しない。


だが、此処異世界には、まるで戦後の様な環境。


スラム街がある。


此処でなら俺と苦楽を共にしてくれる女性に出会えるかも知れない。


そう思いスラムに来たんだ。


しかし、本当に臭いな……


前の世界の若い頃に小便横丁という飲み屋街があった。


酔っ払いが立ち小便して臭いからついた名前だが、それ以上に臭い。


建っている家はボロボロで屋根に穴が空いている家や、更にボロボロの小屋が多い。


そこで暮らしている人はまだ良い方で……道端で寝ている人間も多く居る。


わざとボロのマントを羽織ってきて良かった。


普通の服でも此処じゃ浮いてしまう。


適当な所に座って様子を見ている。


朝から酔っぱらって寝転がっている人。


昔、読んだボクシング漫画で見た気がする。


しかし、凄いな異世界……結構な数のホームレスが居る。


だが、その殆どは男で、女のホームレスは居てもかなりの高齢な女性しかいない。


年頃の女性が居ても……恋人が居るか、両親と暮らしているようだ。


貧しいながらも『案外幸せそう』


恋人、夫婦……家族を見るとそう感じてしまう。


ふぅ~探すのは無理そうだが、折角来たんだ。一応聞いてみるか?


「あのぉ~スイマセン」


「なんだ、お前ぇ~」


俺はあらかじめ持ってきていた、安ワイン数本を数人で飲んだくれている親父たちに挨拶代わりに渡し話に加わった。



ワインを振舞い仲良くなるなか……それとなく相談がてら話をしてみる。


「スラムに恋人探しだぁ~ 兄ちゃんそれは無理だよ! 居てもババアばかりだぁな」


「うんだ、うんだ……大体、若い女ならスラムに来る前に体を売れば娼婦になれるだから、こねーべ」


言われてみればそうかも知れない。


「んだな……それに若い女なら、自分を奴隷として奴隷商人に売り飛ばす事もできるだぁ……此処でホームレスする位なら奴隷になった方がマシだぁな」


なんだか、納得してしまう。


日本の戦後に無くてこの世界にある物……それは奴隷制度だ。


話しによれば奴隷は最低限の生活の保障がされているそうだ。


それなら、ホームレスより食事や生活の保証のある奴隷を選んでも可笑しくない。


「それじゃ、若いホームレスはまず居ないんですね」


「んだな……1人いるには居るが……ありゃ見たらガッカリするだなぁ」


「ん……若いけど兄ちゃんの言う恋愛対象にならねーだ。 食料や金の為ならなんでもする、まぁゴミみたいな女だな……」


「それに訳ありの獣人じゃあよ」


獣人? 折角だから、見てみたい。


「その子に何処に行けば会えますか?」


「んだぁな……この辺りに入ればそのうち現れるだぁな」


まぁ、どうせ暇だから、暫く此処にいるか……


「おい、そこは俺のシマだ! かってに漁るんじゃねーぞ!」


少し離れた所から男の怒声が聞こえて来た。


「兄ちゃん、現れたみたいだぞ……見たいならほれ、あの声の方に行くんじゃ」


「ああっ」


俺は怒声が聞こえてきた方へ走って行ってみた。


◆◆◆


「アリスはなんでもします……もう何日も食べていないんです……お願いですからこれを食べさせて下さい……」


「駄目だ……お前みたいな奴に誰が食料なんて渡すか……こっちに寄越せ」


どう見てもカビの生えたパンだ。


そんな物の為に『なんでもする』なんて……


それに俺からみたらなかなかの美少女だ。


白い髪にやや赤み掛かった目。


そして尻尾……確かに獣人だが......言っていたのと違い凄く可愛い。


「お腹すいた……お腹……」


「知らねーよ! それを置いてさっさと行け!」


「はい……」


この子がゴミ?


確かに少し幼いが、凄く可愛い。


どういう風に声を掛ければ良いんだ……


そうだ……


「へぃ、そこの彼女良かったら俺とお茶しない?」


「……お茶なんていりません……食べ物を下さい……アリスはなんでもしますから……お願いです……」


「解った」


俺の人生で初めてのナンパはどうやら上手くいったようだ。




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