第10話 路地裏のアリス


「悪いがテラス席でよいか?」


「別に良いですよ、アリスは構わない?」


「アリスは構いません……ご飯が貰えるなら……地べたでもどこでも……」


「だ、そうで、お願いいたします」


「ああっ……」


幾ら美少女でもホームレスだから、汚い。


店の中に入れたくない気持ちは解る。


そして、アリスを見る目と街の状況。


なんとなく、状況が把握できた気がする。


紳士的に椅子を引いてやり座らせようとしたが……


「あの……ご飯が貰えるなら……床で良いです……」


「なんで……」


「アリスは椅子に座ってはいけないんです……座ると殴られます」


やはりそうなのか……


「あの、店員さん、彼女は椅子に座っちゃ駄目なんですか?」


「ああっ、うちは獣人でもホームレスでも差別はしねーから大丈夫だぜ! 但し椅子に座るのはお客様だ! ちゃんと2人前注文してくれれば良いぜ! テラス席に座らせたのは汚いからだ、清潔にしていて金を払ってくれるなら、獣人でも店内で食わせるぜ」


やはり、獣人はこの国だか世界では下に見られるのだろう。


なんとなく様子で解った。


「だ、そうだ! 俺は2人前ちゃんと頼むから、アリスも座ってくれ」


「お兄さん……ありがとう……」


アリスを正面に座らせたから、お互いが見つめる様な感じになる。


汚れてくすんでいるが、狼みたいな耳に雪の様な白い髪……肌なんてホームレスで垢だらけなのに、それでも色白なのが見て取れる。


スレンダーで色白の美少女、それが良く解る。


目が大きくてやや赤目、シャギーの髪型。


白い髪は少し銀が入っているのか神秘的だ。


ただ、気が付いたのだが、思ったより幼い。


見た感じ、小学生の高学年から中学生くらいに見える。


前の世界で言うならジュニアアイドルに近い感じだ。


ただ……さっきから涎を垂らしているから……少し残念なのと、幾らこの世界の成人が15歳とはいえ、この年代の子に手を出して良いのかと……少し反省している。


「なにか食べたい物はある?」


「アリスは……食べられるなら何でも良いです……」


俺もなにがお勧めか解らない。


「すみません……お勧めの定食を2つお願いします」


「あいよ……オーク肉のステーキがお勧めだ! それでよいか?」


「お願い致します!」


暫くすると、500グラムはありそうな大きなステーキが出てきた。


多分、このボリュームが売りなのかも知れない。


目の前に置かれた皿をアリスは、涎を垂らしながら見ている。


「これ、なにかな? 凄く美味しそう……お兄さん、これアリスが食べていいの? 本当に良いの?」


尻尾を振っていて凄く可愛い。


「良いよ」


そう俺が言うと、凄い勢いでアリスは肉にかぶりついていった。


熱いから火傷しそうだが……お構い無しだ。


かなり飢えていたんだな……


今は話しかけても無理そうだ。


食べ終わるまで待つか……


俺も自分お前に来た肉を……


凄いなアリス、もう自分の分を食べ終えてこっちを見ている。


「食べたいなら、食べて良いぞ」


「うそ……お兄さん、ありがとうーーっ! 大好きーーっ」


肉位で大好きなんて……まぁいいや。


ひねくれた考えは止めよう。


アリスが肉を食べ終わるまで待っていたが……


アリスが盛大に吐いてしまい、お店にお詫びとして少し包んで外に出た。


よく考えたら、空腹の状態で油ののったステーキを食べたんだ。


そうなっても可笑しくない。


俺の配慮が足りなかった。


「それで、お兄さんは……アリスを、虐めたいのかな......殴りたいの……お肉も貰ったし、良いよ……遠慮しないで殴って......」


なんでそうなるんだ……


「どう言う事?」


「私獣人だから、普通の人に嫌われているのも解るよ。 私……獣人としても体力が無く、価値が無いから……憂さ晴らし位しか使い道ないもん」


「え~と……俺は単純にアリスが可愛いから声を掛けただけなんだけど……」


「おかしいですよ……人族は獣人族を嫌っていて……重労働以外で価値なんて考えないですよ……お兄さん!」


そうなのか……


「そういう物なのか……それならなんで、王国のスラムになんて居たんだ……人族ばかりじゃないか? 獣人の国とか無いのか?」


「獣王様の国、アニウォーがありますよ……そこでは私は人族以上に、嫌われてばかりですよ、殺されても仕方が無い存在ですから……私の肌の白さ見ましたよね? こういう醜い獣人は生まれてきたら本来すぐに殺されてしまうんです……育っても真面に育たないですから……実際に私は、視力は人間より悪く、片目は余り見えません。 聴力も片耳は穴が塞がっていて聞こえないんです……それにこの白い肌、日差しの強い時は火傷したみたいに痛くなる時があるし、獣人なのに体力も無く、人族より劣る位なんですよ……」


「アリスは、そう言えばなんの獣人なの……」


「その……犬ですよ……」


そうか……


ようやくアリスの状況が良く解った。


アリスは恐らく、アルビノだ。


獣人は解らないが、動物の世界ではアルビノは嫌われる。


まず、1人だけ、白か金で目だつから他の生物から狙われやすい。


良く、アニメや小説では『白いライオン』や『白い狼』が強い話が描かれるが、あれは全くの嘘。


アルビノや白変種が通常の動物より優れていることはまず無い。


基本的にどこか疾患を持ち、体が弱い事の方が多い。


猫や蛇、魚はあまり、障害は出にくい……


そんな中でアルビノとして最悪なのは『犬』だ。


猫のアルビノと違い、犬のアルビノは少ない……居たとしたら、大体の場合は何処かしら障害を抱えている。


それも重度の障害を抱えている場合が多いのでペットとして流通しない。


殆どの場合は客先に出される前に処分されてしまう。


そういう話を昔、ネットで見た記憶があり、障害を抱えたアルビノのワンコのプログを見た記憶がある。


獣人は解らないが……アリスの話を聞く限り、犬のアルビノの悪い所がかなり出ている気がする。


「他の事は兎も角、俺にはアリスは『凄く可愛らしい美少女』にしか見えないよ……同じ位可愛い子は見た事が無いよ」


「うそ……ですよ……私、皆から嫌われていて……ううっグスッ……私を可愛いなんて言う存在……絶対いませんよ……」


人族は獣人を嫌う、そして獣人はアルビノを嫌う。


そんな世界で生きているアリスがそう思うのは無理もないよな。


「そんなことは無い……」


「容姿もそうですが、体力だって並以下なんです……」


俺なら別に構わないな……


『男は外に出て金を稼ぐもの、女はうちで家を守るもの』


それが祖父や祖母の考えだった。


俺が頑張って稼げば良いだけだ。


年齢差から考えて『同居人』からスタートすれば良いんじゃないか?


「良かったら……俺とつき合いませんか?」


訝しげな表情でアリスは俺を見つめてくる。


「本気で言ってますか? 本気なら1つだけ私の我儘を聞いて下さい……それだけ守ってくれるなら……私は何をされても構わないですよ……クズですし、真面な存在じゃないですから……」


「解った……」


こんなかわいい子とつき合えるなら、どんな厳しい条件か解らないが頑張ってみるか。

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