第7話 神剣 ミステ
「魔法剣士だって?! また随分と難儀なジョブだな!」
今、俺は武器屋に来ている。
「魔法剣士は難儀なのですか?」
「ああっ、剣士なら剣を買えば良い、魔法使いなら杖だ。だが、魔法剣士が使いやすい武器と言えば、剣杖……剣であり魔法が使える杖でもある剣杖が理想だが、はっきり言って数も少なく、そして高い。また使う人間が少ないから中古品も少ないんだ」
「そうなのか?」
「ああっ、うちにある剣杖はこれしかねーが、価格を見て見ろ」
「金貨7枚」
「結構するだろう? そればかりじゃない。逆に腕が上がり上等な武器が欲しいと思ったら、今度は強力な武器がなかなか無いんだよ」
「それじゃ……かなり不利という事ですね」
「いや、そこ迄悲観はしなくても良いぜ。 魔法を使いたいなら杖、剣を使いたいなら剣を買えば良い……だが、どちらの武器を選んでも剣は剣士に魔法は魔法使いに負ける。 まぁ若い初心者なら剣から入るのがお勧めだ……初心者で金が無いなら、そこの樽に入っている剣を選んで、ゴブリンや大兎あたりを狩る処から始めたら良いんじゃねーか?」
「成程」
器用貧乏の意味がようやく解かった。
イメージしていた魔法剣士と随分違うな。
魔法と剣を自由に使う凄いジョブ。
これは、小説やマンガでかってに俺がイメージした姿。
実際は色々と大変なジョブみたいだな……
「ああっ、掘り出し物もあるかも知れねーから、まぁ見て行ってくれ」
これはPCで言うジャンク品という事か……
俺が小説の主人公なら此処で伝説の剣とか手に入れるんだろうが、残念ながら、俺は主人公じゃない。
そう都合の良い話は起きない。
しかし、どう見てもガラクタばかりだ。
鍔が無い物や錆びた物ばかりで掘り出し物があるとは思えない。
だが、当座の間に合わせと考えたらそう沢山のお金は使えない。
うん?!
なんの冗談だろうか?
1本だけ、玩具みたいな剣がある。
どう見ても刃がプラスチックに見える。
大きさは40cm位だろうか。
子供の持つオモチャの聖剣に似ている気がする。
『凡人よ良く聞くが良い……我の名はミステ……この世界に存在する唯一の神剣なり……お前には我を所持するチャンスをくれてやる! 我を買うのだ……』
「インテリジェンスソード?」
『違う、これは我の意思をただ伝えただけだ……周りには聞こえない……さぁ、聖剣すら超える我が能力、手にするが良い』
そんな声が聞こえた気がしたが……錯覚かも知れない。
だが、このおもちゃみたいな剣、実際に手に取ると重い。
プラスチックではなく、特殊な金属で出来ているようだ。
「どうした? 掘り出し物は見つかったか?まぁそこにあるのは不良品ばかりだ……まぁいくら探しても碌なのはねぇーよ……真面な剣や杖を買うまでの間に合わせ程度に考えてくれ」
この変な剣は幾らなんだろうか?
「すみません、この……玩具みたいな剣は幾らですか?」
「それな……多分裕福な子供のおもちゃみたいな物だから、銀貨1枚で良いよ」
さっき、頭の中に聞こえてきたのは幻覚かも知れない。
だが、此処は異世界だ……不思議な事が起きても可笑しくない。
「それじゃ……この剣買います」
「いいけど……それはあくまでオモチャだぞ……まぁ、重いから剣を振る練習にはなるか……まぁ頑張れ」
「はい」
代金を払い、お礼を伝えて俺は武器屋を去った。
◆◆◆
王都の門を出て草原に来ている。
この辺りは遠目に王都が見えるから、魔物とかが出ても走って逃げれば大丈夫……まぁ、普通に少し離れた所を商人が普通に歩いているから安心だ。
本当にこの剣は……意思を持っていたのだろうか?
『心外だな……我が名はミステ……女神イシュタスが造りし唯一無二の神剣なり!』
幻聴ではない……
まさか、本物の神剣……
神剣って聖剣より上の存在だよな。
俺が持っていて問題にならないのか……
『お前がした善行に対し女神イシュタス様が我と引き合わせたのだ、所持者として問題無い……ただ、我は神剣、所有者になるには一つだけ条件がある……』
「条件とは何でしょうか?」
『我を持つ者は孤高の戦士になる必要がある。群れを嫌いどんなパーティにも属さず、ただストイックに己1人で戦い抜く……それが条件だ! それを守らなかった時、そなたには大いなる災いが降り注ぐであろう……』
パーティが組めない。
まぁ、知り合いも居ないから良いかぁ。
「解りました……それで、一体神剣のミステにはどのような能力があるのでしょうか?」
『うむ、所有した者とは生涯離れぬ、そして不破、粉々になろうと再生……もう一つは戦いの中で知るが良い……丁度良い、このまま討伐に向かうが良い』
「薬草もポーションも持ってないのですが……」
『我がついておる、安心するが良い!』
神剣だというし、王都周辺の魔物位なら大丈夫か。
確かゴブリンやオークは常時依頼で左耳を持っていけばお金が貰えるんだよな。
「よし頑張ってみるかっ!」
『うむっ、その粋じゃ』
こうして俺は神剣に導かれ森へ向かい初めての討伐に挑むのだった。
◆◆◆
魔法剣士のジョブの恩恵だろうか。
ゴブリン相手に普通に戦えた。
今現在2体のゴブリンを倒した。
戦った感想は、高学年の小学生相手に戦っているような感覚だった。
だが、死に物狂いで襲って来る小学生を1人殺して銅貨6枚(約6千円)
安いんだか高いんだか解らない。
耳を削ぐときに少し気おくれしたが、問題無く狩れた。
ただ、ゴブリンは良いがオークになると肉も売れる。
果たして解体が出来るかどうかが今後の問題だ。
冒険者をするなら、出来るようになる必要は間違いなくある。
やらない、選択は出来ないな。
「きいしゃぁぁぁぁーー」
「悪いが……狩らせて貰う」
調子よく更に2体のゴブリンを狩って討伐を4体に増やした時だ。
調子に乗り過ぎた。
3体のゴブリンに囲まれ……嘘だろう。
上位種、しかもホブゴブリンじゃない。
鎧を身に着けているゴブリン……ゴブリンナイトが居る。
「ミステ……ヤバい、ヤバいよ……これ不味い」
『我が主よ! 狼狽えるでない……神剣使いとして……戦うのだ』
「手を貸してくれ……」
『剣の我がどう手を貸せと言うのだ……自力で頑張るのだ』
嘘だろう……
気が付くと俺はゴブリンからの攻撃を受け意識を失っていった。
折角若返ったのに……此処で人生が終わるのか。
◆◆◆
「大丈夫ですかな?」
目が覚めると、目の前に司祭がいた……やはり、俺は死んだのか。
いや違う……此処は教会だ。
「あの……俺は……」
「先程、大怪我を負った状態で此処に来られ、『治療をしてくれ』と言われ、気を失われました。 結構な大怪我でしたので治療費は銅貨6枚になります」
記憶が全く無い。
だが、俺はゴブリン達によって死に掛けていた。
そこから治療をしてくれたのは間違いない。
俺は治療費を払いお礼を言い教会を後にした。
◆◆◆
「ミステ、これはどう言う事なんだ……」
『うむ、我の名前のミステは『見棄てる』事に由来する。所有者が死にかけるとその体を乗っ取り、空を飛び、近くの教会まで逃げ出すのだ! 』
「もしかして、能力はそれだけですか……」
『うむ……それだけだ……だが、我がその気になれば魔王城でも無い限り逃げ出せる自信はある。 安心では無いか?』
戦闘に置いて『死の恐怖が無い』といのは凄い。
だが、これじゃ絶対にパーティは組めない。
仲間を見棄てて1人だけ逃げ出すんじゃ……誰かと一緒に討伐なんて絶対に無理だ。
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