第4話 異世界での初めての夜
あの後、部屋に通され休んでいたのだが、俺だけが呼び出された。
生徒達は勇者予備軍。
それに対して俺は巻き込まれただけの者。
対応が必要なのは俺だけだ。
兵士について行くと、小部屋に通され、そこにはちょっとだけ偉そうな騎士のような人物が待っていた。
「理人殿、貴方に対する対応について伝えるが宜しいか?」
「はい」
魔王討伐に貢献しない俺に王や王女が合う必要も無いか。
「コホン……提案は二つ。 このまま城に残り、適正な職につくか、支度金と身分保証をするのでそれを持って自由に過ごすかだ。 城に残った場合は、適正を見て文官や兵士、騎士の道が開かれる。他になにか希望があればある程度聞く用意はある……」
城に残るのもありだが、折角若返ったんだ。
今迄出来なかった分自由に生きたい。
「それなら、自由に過ごしたいから、すみませんが、支度金と身分保証を頂けますか?」
「ああっ、それは構わないが……城勤めは民衆の憧れの仕事なのだが、本当に良いのかい?」
「構わないよ、折角、異世界に来たんだから色々と見たり、経験したいんだ」
「そうかい? まぁ見知らぬ世界を見て歩きたい。その気持ちも解る。それじゃこれが王宮からの身分証明書と支度金の金貨10枚だ! お城を出て大きな道を道なりに歩いていけばすぐに王都だ! 頑張って暮らせよ! それじゃーな……おい、お前等、城の外まで丁重にお連れしろ」
「「ハッ!」」
兵士二人に案内され城を出る。
え~……まさかと思っていたけど、今すぐ追い出されるのか……
せめて一晩位は置いて貰えると勝手に思っていたんだけど……
『不要な者はすぐに追い出せ』っていうのか?
案外世知辛いな……
その方が俺も都合が良いが、まさかこんなに直ぐに追い出されるとは流石に思わなかった。
◆◆◆
城から外に出ると既に夕方だった。
途中、教会が運営している露店があったので、女神イシュタス様の小さな像を購入した。
経文みたいな物もあれば欲しかったのだが、どうやらそういう物は無いらしい。
お勤めの小冊子は逆に無料で貰えたが、書いてある文字は残念ながら読めなかった。
日本と違い、夕方からちらほらと店が閉まっていく。
異世界にコンビニなんて便利な物は無いだろうから、買い物は明日にするしかないな。
通りすがりの気の良さそうなおっちゃんに安い宿屋の場所を聞くと、宿屋の場所を教えてくれたので、向かった。
宿屋の名前は『イーリス亭』
未亡人か美しい三姉妹が経営してそうな宿屋の名前だが……
「いらっしゃい!」
元気な禿のおっさんの経営する宿屋だった。
「安い1人部屋、出来たら食事付きでお願いしたいのですが……」
「それなら銅貨4枚だ! 食事は夜が銅貨1枚、朝食は小銅貨5枚でつけられるぜ!」
「それじゃ、それでお願いします……それでお風呂とかは流石にありませんよね」
「一番安い部屋にはついてない。 だが、少し高い部屋なら風呂付の部屋もあるぜ……風呂つきの安い部屋なら、銅貨6枚から空いている、どうする?」
初めての夜だから今日くらいは少し贅沢しても良いだろう。
「それじゃ、銅貨6枚の部屋に夕食と朝食をつけて下さい。可能なら、食事を部屋でとりたいのですがお願いしても良いですか?」
「あいよ、お金は前金になるけど良いかい? 銅貨7枚と小銅貨5枚だ」
金貨で払おうとしたが……
「まぁ、今回はお釣りがあるから良いけどよ! 出来る事なら銀貨で払うのがマナーだぜ」
宿屋が1泊銅貨4~6枚。
そうすると金貨は……10万円か。
という事は……支度金として約100万円もくれたのか?
優しいんだか、冷たいんだか…….
「これからは気を付けます」
「いや、黒毛、黒目の人間はこの辺りに居ないから、まぁ地域が変われば世界も変わる。 この辺りは銅貨以下の買い物は銀貨で済ますのが暗黙のルールだ。気を付けた方が良いぞ」
「教えて頂き有難うございます」
宿屋の主人にお礼を言い、カギを貰い教わった部屋へ向かった。
◆◆◆
良く異世界の漫画で見る、宿屋。
お風呂の他に、小さなキッチン迄ついている。
1Kの築古のアパートみたいな感じだ。
だけど、これが一泊約6千円と考えたら安いな。
部屋のテーブルに女神イシュタス様の像を置く。
暫くしたら、頼んでいた夕食が届いた。
見た感じポトフにパン。
なかなか美味そうだ。
イシュタス様の像の前にも小分けして置き、コップに入った水も置いた。
俺は小さい頃はわりと信心深い子供だった。
祖父や祖母が信心深く、神社やお寺の行事に良く参加していたから、一緒に良くついていった。
正月、お盆、お彼岸……神社やお寺の行事に参加し良く祈った。
それなのに……俺の両親は事故に遭い亡くなった。
祖父に引き取られバイトしながら高校に通い貧しいながらも明るく生活していたのに、今度は祖父がガンに掛かった。
しかも気が付いた時はもう手遅れだった。
俺は神仏に祈る事しか出来ず、必死に祈ったが、結局、祖父はそのまま亡くなった。
そして、それを追うように祖母も衰弱して亡くなった。
『神や仏なんて居ない』
その時からそう思って生きてきた。
だが、此処異世界には『本物の女神』が居た。
しかも、凄く美人で慈悲深い存在だった。
俺に良いジョブを与える事が出来なかった事を悔い。
俺を若返らせてくれた。
楽しく送れなかった青春時代。
それを、此処で送れるようにしてくれた。
俺は今迄、神や仏にこんなに親身になって貰ったことは無い。
祖父や祖母、両親が生きていた時に、子供時代そうした様に……
俺はイシュタス様の像に手を合わせた。
『素晴らしい今日をありがとうございます! そして明日がまた素晴らしい日になりますように!』
手を合わせ祈った。
その日、俺は風呂に入り……異世界での最初の夜を迎えた。
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