第4話 軍
2年間はあっという間だった。
転生する前から特段親しい友人がいなかったのも原因だし、俺自身が友人よりも魔法に夢中だったからというのもある。
決してボッチだったわけではない。
それはそうと、今日は俺が軍に入るために帝国学院を中退する日だ。
中退といっても元居た世界の中退とは若干異なっている。この学院は大学のシステムと似ていて自分の受けたい授業を選ぶ方式だ。
必要最低限の単位を取ってから中退した場合、修了という形になって卒業とまではいかないがある程度のステータスになる。
だから2年間授業を詰め込みまくった。
詰め込んだといってもほとんど俺自身が興味あるものばっかだったから苦ではなかった。例えるならゲームの詳細設定を丸暗記するような感じだ。
そして2年の時が経った今、しっかりと先生から修了を宣言してもらってgood bye 学院。
寮の片づけもしっかりやったし、もう学院には用事がない。
もうこの先くぐらないであろう門を潜り抜けて俺は学院を去った。
学院を去ってからすぐに志願兵として派遣された場所は以外にも帝国の首都近郊の訓練施設だった。
てっきりすぐに戦争に駆り出されると思っていたから調子抜けだ。
まず最初に最低限の基礎体力テストをやるらしい。
当然俺は余裕でクリア。2年前からコツコツ体力をつけていたおかげもあってあっさり合格した。
というか志願していた全員が余裕でクリアしている。
流石は志願兵、自ら戦おうとしているだけはある。
「ユーリ・エルド、で合ってるな?」
「はい」
「基礎体力テストはほぼ満点、帝国学院を修了、魔法の才能も有り。
かなり有望だな」
「ありがとうございます」
「こういう新人が欲しかったんだ。
お前は第4防衛施設に配属だ」
「わかりました」
第4防衛施設、帝国の首都から見て北東にある今最も“死傷者の多い”ところが俺の配属先になった。今帝国が仕掛けている戦争の中心部が第4防衛施設なのだ。
戦争自体は終結に向かっているらしいが未だに続いていることには変わりない。毎日魔法が飛んできては騎士が騎馬突撃を行っているのが現場の状況らしい。
そんなわけで第4防衛施設は絶賛の人手不足だ・
今回志願してきた人たちのほとんどが第4防衛施設に派遣されることになったらしい。
「全員よく聞け。明日の朝には第4防衛施設への移動が開始する。
各自、明日に向けて準備をしておくように」
訓練施設の教官が志願兵にそう伝える。
家族に挨拶をする者、荷物の整理をする人と各自それぞれだ。
俺はというとやることが特に泣いため普段通り魔法の訓練をする。
夜、太陽が落ちて辺りが暗くなった訓練施設の一角で1人で練習していると後ろから声をかけられた。
「おい、君も一緒に行かないか?」
「どこに?」
「転移者の処刑にだよ。今日の夜にやるらしい」
「あぁ~、それじゃあ俺も行こうかな」
名前も知らない志願兵に声をかけられて俺は転移者の処刑を見に行くことにした。
この2年間でこっちの世界に転移して処刑された人間はこれ含めて31人。つまるところ1か月に1人か2人が処刑されている。
最初のほうは胸糞悪いと思っていた転移者の処刑もだんだん月日が流れていくうちに慣れてきた。いや、慣れてしまった。
だんだん自分の精神が変わってきている。これが異世界に転生してしまった弊害か、もともと俺に備わっていた適応能力なのか知らないが結構まずい。
そもそも俺が異世界転移者を助けるようと思ったのはただ単純に可哀そうだったからだ。それが今ではなんとも感じていない。
そりゃ一か月に一回は首チョンパを見ているわけだから否が応でも慣れちゃうよ。なんて言い訳をしながら処刑の瞬間を見物する。
今日処刑される人間はスーツ姿の男、大方前世でサラリーマンをやっていたのだろう。
「可哀そうに、ただ転移しただけだろうに」
と独り言をつぶやきながらスーツ姿の男の首が吹っ飛ぶのを見ている。
こんな感じで人が死んでもなんとも思わないってなると自分もかなり異世界に毒されているだなぁって思ってしまう。
処刑台から滴る血を横目にそのまま訓練施設に戻ることにした。
「面白かったー」
「それな」
と訓練施設で話している人たちの間を通ってそのまま就寝する。
その後、志願兵同士で深夜に親睦会をしていたそうだが気づかなかった。
どうせ第4防衛施設に派遣された後に大半が戦死するだろうし、仲良くなろうとも思わない。
翌朝、訓練施設に響き渡るラッパの音で目が覚める。
すぐ身支度を整えて外に出ると、外にはたくさんの馬車が並んでいた。
「これより移動する。全員乗れ」
と言われて空いてそうな馬車に乗り込み、関連施設を後にする。
帝都を出てのどかな平原を馬車に乗ってゆっくり外を眺めている。
これから行く戦争で死んでもダメ、逆に慎重になりすぎてもダメ。ある程度の危険は犯して行動するしかない。
自分が2年間やってきたことを信じろ。
そう自分に言い聞かせて心を落ち着かせる。
「到着だ」
さっきののどかな平原とは打って変わって辺りは荒地になっていた。
戦争の残骸だ。魔法による攻撃で草木は燃え果て、台地には所々抉られている。大規模な戦闘があった証拠だ。
さっきまで大騒ぎしていた連中も、この戦場特有の"匂い"でうるさくなくなった。全員がピリピリし始めた。当然俺も若干緊張している。
人を殺す覚悟はできている。というかそんな覚悟をしなくてもいざ戦うことになったら人は殺せるだろう。
だけれど俺には人に殺される覚悟がない。そもそも志願兵になった理由が周りのやつらの『帝国のために』とかいう高尚なものではなくただ単純に出世したいからというものだ。
なんと不純な理由だろうか。
とはいえこれも異世界転移者を救うためだと言い聞かせると、ある程度自分が高尚な使命のために行動していると思えてくる。
「今日はもう遅い。各自テントで疲れを取るように」
指揮官が俺たちを出迎える。
第4防衛施設といってもあたりにテントを張って周りに魔法で作った防護壁があるだけ。建物らしい建物はない。
唯一あるものは馬を休ませるための馬小屋。とはいっても馬小屋でさえ木と余った布を使ってできた簡易的なものだ。
火の周りに今回来た志願兵が取り囲んで雑談をしている。
俺はというと明日に備えてすぐに寝た。
こっちの世界に来てから1度たりとも友達を作れていない。
異世界に来てもボッチ極まれりなんてことに絶望しながら眠りについた。
翌朝、6時にラッパの音で目が覚める。
すぐにテントから出てテントが張っていない広場のような場所に集まる。
「今から霧に乗じて敵に攻撃を仕掛ける。総員5分で準備しろ」
司令官がそういうと全員が慌ただしく準備を始める。
俺も急いで頭から水を被って寝癖を直してからテントにある自分の魔法の杖を取り出して改めて整列する。
「総員そろったな?それでは各部隊行動開始!!」
司令官が指示すると各自それぞれの軍隊が移動を開始する。
「俺たちは霧に紛れて左の山岳地帯で待機、本隊が突撃と同時に側面から魔法で攻撃する」
俺がこっちに来て配属された魔法部隊は今回は本隊の支援を行うらしい。
これならあまり死なずに済む。そう思いながら山の麓に移動して息を殺す。
「ここで待機、本隊が敵とぶつかった瞬間に攻撃を始めよう」
麓で草木に隠れながら霧が舞っている荒地を凝視する。
太陽はだんだん高く昇り始めてだんだんと霧が晴れようとしていた。
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