第5話 戦闘
霧が晴れた。
と同時に地響きのような音ともに荒地を騎馬が駆け巡る。
「想定通りだ」
思った通りの行動パターンで敵さんたちは第4防衛施設に向かっている。おそらくこの先の本隊と大規模な戦闘が起きるのだろう。
そう思っていた。敵の騎馬隊が急に進路を変更して俺たちの方に突っ込んでくる。
「そんなバカな…」
と思ったのも束の間、こっちに魔法が飛んでくる。おそらく俺たちの軍の作戦がバラていたのだろう。スパイがいたのかは定かではないがそんなことを今考えてある場合ではない。
「総員、戦闘用意‼︎」
まだ名前すら覚えない隊の隊長がそう叫ぶと全員が杖を構える。
「十分引きつけて…、撃て‼︎」
全員が魔法を放つ。
『綺麗』というか感想が一瞬、頭によぎる。
魔法は突っ込んでくる騎馬隊付近に着弾した。馬と人が宙を舞ってあたりは土埃で見えなくなる。
「手を止めるな。撃ちまくっ」
と言い換えた途端、隊長の頭が吹っ飛ぶ。周りはパニック状態だ。固まっていた隊員が散り散りになり始める。
「くそっ、これだから新兵は嫌いなんだ」
「喋ってる暇があったら少しでも魔法を放て」
「わかってるよ」
持ち場を離れずにいる人たちのおかげでなんとか耐えているがこれももう限界だろう。
もう30秒もしたら騎馬兵が魔法を飛ばしてきながら突っ込んでくる。
こうなってくるともう無理だ。
目の前まで迫っている騎馬を眺めながら呟く。
「『ミスト』+『エレキ』」
前方に霧が出現したらと思ったら突然目の前に閃光が駆け巡る。霧の中にいた馬と人間は痙攣したように倒れていき動かなくなる。
「悪いけど、まだ死ねないんだわ」
思ったよりもピンチだがなんとかなりそうだ。
とは言っても如何せん数が多い。
今撃った魔法も強いっちゃ強いが味方がいる状態だと巻き込んでしまうから、できれば敵さんたちにはこれ以上近づいて欲しくない。
「突撃するか…」
と同時に森から出る。
後ろで誰かが「やめろ」と叫んでいるような気がするが、これ以上後退したらそれこそ初陣で全滅ルードになってしまうので無視する。
「『ウォーター』+『エレキ』」
自分の手に水を纏って帯電する。
帯電している電気を致死レベルにまで引き上げ、腕からバチバチという音が鳴り始める。
「『エレキ』」
ついでに体中に電気を走らせて筋肉や神経を強化する。
本来なら感電してしまうような行動だが、電気の属性を持っている人間に限って電気耐性がついているためこれができる。
「よし、準備完了」
と同時に走り出して騎馬兵の中に突っ込む。まず狙うは馬だ。
馬を狙って敵の”足”を奪う。
そうすれば時速40キロという速度を潰せる。
馬を感電死させて止まったところにどどめを刺す。
それを繰り返していくうちにだんだんと数が減ってきている。
「あいつを死なせるな。全員援護しろ」
と森からの援護射撃も相まってかなり効果的だ。
本来ならこういうシチュエーションを想定した作戦だったはずだ。
「ならば俺を本隊代わりにして作戦を続行させる」
とはいえいくら無双できたとしてもいずれは魔力が切れて敗北する。
俺が耐えられなくなるまでに本隊が異変に気付いてくれればいいのだが、そこは運だ。
(魔法兵視点)
「本隊はまだか?」
「おそらくまだかと」
騎馬兵の生き残った馬を使って急いで本隊に連絡する。
あの新兵が戦ってくれているおかげで未だにここは耐えられている。
思えば最初の一斉射撃の時も誰よりも強い魔法を撃っていた。
こちら側の攻撃を敵が抜けてもう駄目だと思った時ですら彼が使った魔法で助けられた。おそらく現状この中で一番強い。
彼にかけるしかない。
その彼が死なないように俺たちは援護に徹する。
「もう少し前に出るぞ」
「わかった」
敵を1体でも倒すために多少のリスクはしょっても前に出る。
彼の負担を減らすために攻撃を続ける。
だが彼も人間だ。体を動かせば疲労はたまるし魔力も減っている。
明らかに最初より動きが鈍っている。
「間に合うか…」
そう思っていた矢先遠くに砂煙が舞っているのが見える。
「耐えたっ…」
頭上に魔法を放って位置を知らせる。
それに気づいた彼もすぐに敵の中から抜け出してこっちに戻ってくる。
明らかに疲労してる。無茶をさせてしまった。
「君のおかげだ」
そういうと彼はぐったりと木にもたれて座り込む。
どうやら俺たちは生き残ったようだ。
突然、森から魔法が打ち上る。
「何だ?」
とあたりを見回すと本隊がそのまま突っ込んできている。
本隊の突撃に巻き込まれないようにそのまま森へ撤退する。
もう戦う余力は残っていないし魔力もすっからかんだ。
あと少し遅かったら負けてたな。
気に腰かけて味方の突撃を見物する。
隣では味方の突撃を援護している魔法兵。
さっきの戦いである程度敵の数を減らしていたおかげで、敵は総崩れだ。
ひとまず、危機は去って俺たちは生き残った。
見事に全滅ルート回避、勲章モノだろう。
「あぁ、殺した数も数えとけばよかったなぁ」
と呟いた後、俺は意識を失った。
目が覚めた。
「知らない天井だ」part.2
起き上がると近くを通った看護師が驚いてすぐに部屋を出ていった。
そしてそのまま医者らしき人を引き連れてこっちに戻ってくる。
「大丈夫か?4日も寝ていたのだぞ」
どうやら俺は4日間寝ていたそうだ。
あの後、意識を失った時に隣にいた兵士が俺から左肩から出血していることに気づいたらしい。戦っている時ですら気づかなかった。アドレナリンが出ていたからなのか痛いという感覚すらなかった。
「君は疲労で気を失ったと思っているだろうが実際は違う。君は出血過多で気を失った。あの場で適切な処置がなかったら死んでいたぞ」
「適切な処置?」
「魔法で傷口を焼いたのだよ。おかげで跡ができてしまったが助かった」
もしかしたら死んでいたかもしれないという事実にゾッとしつつ、そのまま医者の話を聞く。あの後、敵を撃破した後にあの山の麓で休息を取ったらしい。その後、夜間に行進し敵国領土に侵入。見事な勝利だったとのことだった。
「今は2か国間で講和条約を結んでいる所だ」
「…なるほど」
「そしてもう1つ君に伝えないといけないことがある」
「?」
「君に皇帝が会いたいと言ってきている」
「…ガチすか?」
「おそらく勲章のことじゃないかな?君は多くの味方を救った英雄だからな」
結果的に見れば国からしても俺からしても大勝利だった。
多少のけがをしたもののそれに見合う成果があった。
「それじゃあ俺はいつ皇帝に会いに行けばいいんですか?」
「彼が回復したらすぐにでもと言っていたよ。だが、その様子ではいつでも会いに行けるな。すぐに検査をしよう。」
「はい」
「もし大丈夫だったら今日にもここを出て帝都に行きたまえ。君は国の英雄なのだから」
その後の体中を検査したが特に問題はなく、右肩に負傷以外には何もなかった。
右肩ですらも1か月安静にしてればどうにかなるらしく、その日の夕方には第4防衛施設から出発することになった。。
「お前のおかげで助かったよ」
「ありがとう」
といった具合に感謝されながら出発し一晩かけて帝都に戻る。
夜、星を見ながらこれからのことを考える。
(勲章次第で今後が変わってくるな。もし褒章がでかかったらそのままどっかの貴族にすり寄って法改正をしてもらえばいいか
問題は褒章があんまりでかくなかった時だ。
戦争が終わってしまったためにこれ以上武功で稼ぐ方法がない。
そうなってくるとまた一からどっかの貴族に自分を売り込むという手間が発生する。まあそうなる分には仕方がないか。
今の実力さえあればどっかの貴族が用心棒として雇ってくれるだろう)
そんな考えを巡らせながら帝都に戻った。
馬車はそのまま帝都の中心に位置する城に向かっていった。
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