第2話 処刑

寮に戻り夕飯、入浴、その他夜のスキンケアを済ませた後、本日2度目のベッドイン。


布団に入って今日起きたことを振り返りながら少し考え事をしている。


寮の夕飯に割と現代でも高品質なパンが出されたことやこの世界には入浴文化があること、スキンケアなどの美容アイテムが豊富であることも今は亡き異世界転移者たちのおかげなのかもしれないと思いつつ、意識を手放した。





翌朝、小鳥のさえずりで目が覚めた。


「すっげぇ目覚めのいい朝」


なんて独り言をつぶやきながらベッドから降りる。

昨日は当然ながら夜遅くまでゲームなんてできないし、そのおかげもあってかかなり早めに寝ることができた。


そしてその恩恵が今日は朝の目覚めがいい。

ひとまず顔を洗ったりしながらゆっくりと学院に行く準備をする。


「こういう制服も難なく切れるのも前の記憶のおかげだなぁ」


なんて考えつつ学院の制服に着替えてそのまま部屋を出る。


今日はこっちの世界に来て初めての授業だ。

普段なら学校なんてゴミだとか、授業マジだるいだったりといったところだが今日の俺は一味違う。


なんせ異世界の学校なわけだ。興奮しないわけがない。


そして寮を出ようとしたとき寮の管理者らしき人から声をかけられた。


「今日は休日だぞ」

「あっ、寝ぼけてました~」


そんなこんなで異世界生活2日目が始まった。





いったん部屋に戻る。


やっべぇ、すごい恥ずかしいことした。

というかよくよく見たら俺の部屋にちゃんと時計とカレンダーあんじゃん。これも異世界転移者のおかげなのかなぁなんて思いつついったん椅子に腰かける。


おそらく今日明日は学校がないのである。いわゆる土日休日というものだ。


今日は学院の授業を受ける気満々だったからちょっと残念だったけど休日ということは逆に、今日は学校周りの街に出かけることができるということだ。


「それじゃあ今日1日は学院の外で過ごそう」


というわけで異世界の探索が始まった。

まず最初に学院の正門から外に出るとあたり一面のヨーロッパ風な街並みに感動する。めちゃくちゃきれいだ。


さて、異世界に来て最初にやることは何だと思う?

やはり冒険者ギルドに行くことだろう。

この世界には冒険者ギルドがあることは織り込み済み。

前の記憶で見たからね。


「Theって感じだな」


ザ・冒険者ギルドっぽい建物の中に到着して中に入る。

中は思ったよりもきれいでやはりこの世界の掃除系の清潔概念は異世界転移者特有のものだ。


「冒険者の登録をしたんですけど」

「冒険者の登録ですね。ちょっと待ってください」


受付がそういうと書類と鉛筆を渡してくる。


「個人情報をここに書いてください」

「わかりました」


書類に必要事項を書き込んでそのまま提出、異世界物特有の血をカードに垂らすやつも終えてようやく冒険者登録が館力した。


「ありがとうございました。カードは失くした場合再発行は可能ですが料金がかかってしまうので気を付けてください」

「わかりました」

「左の掲示板に貼られている紙が依頼書なので剥がしてこちらの受付に持ってきて下さると依頼を受理できます」

「はい」


と説明を受けてようやく依頼を受けることができる。

だけど今日は依頼を受けたりはしない。そもそもここは帝国の首都だから1日で終わる依頼がほとんどない。

『○○のドラゴン討伐』だったり『××エリアの地図作成』だったりとここから行くだけでかなりの日数がかかる。


今日は冒険者登録をするだけ。

いわゆる身分証代わりだ。


それよりも今までこの体の元の持ち主がこれまで冒険者登録をしていなかったこと自体に驚いている。なんでやらなかったんだろう。別にいいやってほったらかしにしていたのかな。


そんなわけで冒険者登録を済ませた俺は次にやることを考えてきた。


正直なところ学院外に出かけたことですら見切り発車なわけだから正直なところ冒険者登録を済ませた今やることがない。


一応財布は持ってきたため買い食いなどをして暇をつぶしているがそろそろ

俺の胃袋も満足しそうなため新しい暇つぶし方法を考えなければいけない。


とどうしたものかと考えていたところ広場のほうが何やら騒がしいことに気づいた。

祭りか何かでもやってるのかと思い広場のほうに足を運んでみると何やら人だかりができている。


ひとまず周りの人に何が起きているのか聞いてみよう。そう思い人だかりに参加しようとしている初老の男に声をかける。


「なにやってるんですか?」

「あぁ、異世界転移者の処刑だよ」


一瞬耳を疑ったが初老の男は確かに『異世界転移者の処刑』と言っていた。

まさかと思い、人だかりをかき分けていくと映画で見たことがある処刑台に見慣れたブレザーを身に着けた高校生らしき人が拘束されていた。


目には恐怖と困惑が浮かんでいて彼は自分の現状が理解できていないのか、はたまた理解したくないのか、しきりに首を振っている。


「助けて」


ようやく自分が殺されることに気づいたのか心の底から声を出して助けを求めている。だけど民衆は見るだけ。


そんな俺はというとグロいなぁという感情しかなく、強いて言えば胸糞悪いという表現が正しいのだろう。


異世界に転生してから自分の精神が元々体を持っていた人の精神に若干汚染されたのか、はたまた倫理のレベルが2段階ぐらい下がったのか。

詳しくはわからないが本来なら吐くようなレベルの光景もある程度見れるようになってるし、こういう可哀そうだなと思える状況ですらも心の上辺ですら思えなくなっている。


俺の精神はさんがら鮫島涼(Ver.ユーリ・エルド)といった具合だ。


やがて名前も知らない元同じ世界を知る学生は首チョンパをされて処刑された。


集まってきていた人たちの反応はさまざまである。異世界転移者が死んで喜んでいる人、殺すことはないんじゃないかと悲しむ人、無関心でただただ人が集まっていたからやってきた人と千差万別だ。


処刑が終わり人が減ってきた広場で俺はさっきの光景を目の当たりにして座り込んでいた。

いくら倫理のレベルが下がったとはいえ人生で初めて人が殺される瞬間を見た。かなりの精神的ダメージだ。


「今さっきの転移者も軍が捕まえたらしいわよ」


「可哀そうに、まだ子供なのにねぇ」


と後ろで主婦たちの会話が聞こえてくる。

猟犬部隊というのはわからないがとにかく帝国には異世界転移者を捕まえる軍隊があるらしい。


かといって今すぐに軍隊を全滅させればいいわけじゃない。そもそも今の俺が1部隊を全滅できる力を持っているわけがないし、そもそも部隊と言っているならば全滅しても人員が補充されて今まで通りの転移者狩りが続くに決まっている。


そもそも異世界転移者を救おうとしてきた人たちが全員処刑されているのを見れば、俺が軍隊を攻撃するべきではないのは一目瞭然だ。


前提として俺は死にたくない。

つまり俺がやるべきはただ1つ、今から出世しまくって異世界転移者を処刑せずに済むシステムを公的に確立させる。


そうすれば異世界転移者が死なずに済む。

いくら倫理がなくなったとはいえ同じ世界に住んでいた人がバカスカ死んでいくのは気分が悪い。



同じ世界のよしみだ。

助けてあげたいと思うのは当然だ。

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