異世界 " 転移 " 者が絶対に殺されてしまう国に転生してしまいました

ヤンミョムチキン

第1話 異世界転生

いつもと変わらない日常。

数学の時間、昨日の夜遅くまでネッ友とゲームをやっていたのがたたったのか居眠りをしてしまった。

まあ、居眠りをしたところで俺の席は一番後ろだから問題ない。現に今までこうやって授業中突っ伏しても怒られたことは1度もなかった。


だけれど今日は違った。

突然のおっさんの野太い声で目が覚める。


あれ、数学の先生って女性だったよな?と思いつつ体を戻すと、そこは見知らぬ場所だった。

大学の講堂のような場所に魔法使いのようなローブを身にまとっている生徒と先生、そこはさながら『異世界物の学園』のようだった。


「ユーリが居眠りとは珍しいな。大丈夫か?」

「だっ、大丈夫です」


と無意識に言ったのもつかの間、突然頭に激痛が走り俺はそのまま意識を落とした。





目が覚めると知らない天井だった。


「知らない天井だ」

「ここは医務室よ」


誰もが一度は言いたいセリフを言ったところで医務室にいた先生から自分があの後どうなったのかを聞かされた。


「君は突然頭を抱えて気絶、そしてここに運ばれてきたのよ」

「そうなんすか…」

「一応けがはなさそうだけど念のため今日は先に寮に戻ってなさい。午後の授業は受けなくていいわ」

「わかりました…」


とうわの空で返事をする。

なんせ俺には今の状況を正しく理解するのに精一杯だ。


「先生、寮ってどこでしたっけ?」

「何を言ってるの?寮は学校を出て左にあるに決まってるじゃない」

「そうっすよね。失礼します」


不思議そうに俺を見てくる先生を尻目に医務室を後にする。

とにかく今は寮とやらに戻ろう。


なんとなくで階段を降り廊下を歩いていると学校の出入り口らしき場所に着いた。


「学校を出て左だよな」


さっきの先生に言われた通りに移動するとすぐに大きな建物が目の前に広がる。

すぐに建物の中に入り中にいる大人に声をかける。


「すみません。学校を早退してきたんですけど」

「あぁ、話は聞いているよ。今日はしっかりと休んでなさい」

「わかりました。それで俺の部屋ってどこですか?」

「? 君は3階の314号室だろう?」

「そうっすよね。ありがとうございます」


そういい階段を上り314号室を探す。

すぐに314号室を見つけて中に入る。そしてそのまま地面のペタリとしゃがみこんだ。


「何この状況。ドッキリ?」


自分の身の回りに起きている状況を脳みそが理解を仕切れずにフリーズする。

まずなんで俺がこんな場所にいるのか。そして脳みその中にあるよくわからない記憶はいったい何なのか。


すべてが意味不明である。極めつけはこの茶髪。

俺の高校は髪染め禁止なのでこういうのはあり得ない。そもそも俺の地毛は真っ黒なはずである。


そして1つの考えが頭の中に浮かんでくる。


「もしかして俺、異世界来ちゃった?」


どうやら俺は異世界に来てしまったらしい。





「いったん整理しよう」


つまり俺が元居た世界で寝ていた間、何がどうなったのかはわからないが異世界に飛ばされてしまったらしい。

厳密にいうと異世界転生、高校1年生の16歳だった俺は、同じく16歳のこの体に魂が乗り移ってしまったらしい。


こうなってくると元の肉体が心配だがいったん忘れよう。

それよりも今は自分の情報を整理するほうが大事だ。


「ユーリくんって言うのか…」


体に残っている記憶を思い出していき自分の出生や現在の自分の立ち位置等々を調べていく。そして調べていくうちにある程度自分のことを理解できるようになった。


「本名ユーリ・エルド、帝国学院に在学している4年生、元貴族、2年前に麦製品の密輸がバレて父親は処刑、母親は国外追放、家は没落している」


うーん、思ったよりも重たかった。


とはいえ同情している暇はない。

自分の情報を整理できた今、次にやるべきはやはりこの国の情報を得ること。

ひとまず夕方になったら図書館にでも行ってこの国のことを調ることにしよう。


それまではいったん夢の世界にお休みだ。

もしかしたらこれはすべて夢だったという可能性もある。もしまた目が覚めたら元居た学校に戻っているかもしれない。

淡い期待を背負ってベッドに横になり夕方まで寝ることにした。





結論、夢じゃなかった。


目が覚めてまた見慣れた机の教室ならよかったんだけど実際は西日が窓からさして赤みがかった中世っぽい部屋だった。


うーん、どうしたものか。

とはいえ正直ワクワクしている。

もし本当に異世界転生しているのなら魔法とかを使えるというわけだ。幸いこの世界に魔法があるのはこの体の持ち主の記憶から教えてもらった。


ひとまずはこの世界のことを知って、充実した異世界生活を送っていきたい。そのためにもまずは情報収集だ。


2段ベッドを降りてそのまま寮を抜け出す。

具体的な時間はわからないがおそらく時刻は4時過ぎぐらいだろう。


学校に着き記憶を頼りに図書館に到着。思ったよりも全然広くて正直驚いている。


とりあえず最初はこの国の法律を調べよう。

前の世界で合法だったものがこの世界で違法でそのまま処刑とか言われたらたまったもんじゃない。


「法律関連…」


と探していくうちに見つけた。改訂版帝国憲法と背表紙に書かれている分厚い本を取り出してページをめくる。


「書いてあることは普通だな…」


と内容を読み進めていくうちにちょっと気になる内容が目に飛び込んできた。


「『この国に転移してきた一切の異界の者の生存を許さず』?」


どういうことだろう。

もしかして俺のほかにも異世界転生してきたり、異世界転移してきた人間がいるのだろうか。

いる場合はこの憲法の内容が結構怖く感じるんだけど...





いったん憲法を読み終えた。

思ったよりも量が少なかったのが幸いだった。

だけど懸念点というか、問題点がある。


あの異世界転移者ぶっ殺しゾーンみたいな法律は何なのだろう。

なんであんな法律がこの国に存在するのか疑問だ。


ひとまず読み終えたこの憲法を元に戻してこよう。

席を立ちこの本の元あったところにしまいに行く。

そして本をしまったとき隣の1冊の本が目に留まった。


「帝国憲法?」


『改訂版』という文字が見当たらない。

もしかしたらこっちは古い憲法なのかもしれない。


古い憲法なら読む意味はない。

読んだところで現在に活用できるわけでもないし、ただ要らない知識を身に着けるだけだ。


「ちょっと流し読みしよう」


何を思ったのかちょっと読むことにした。

その場で本を開いて1章目から順に早々と呼んでいく。


「おかしい。なんで転移に関する法律がないんだ」


読んでいるうちに古い憲法の中には異世界転移の話が一切見当たらないことに気づく。


嫌な予感がした。

1つ目はこの憲法を作った人が異世界人で自分以外が異世界の技術を持つことを恐れてこの法律を作ったということ。

もう1つは昔に異世界人が何かをやらかしてこの法律が誕生したという説。


急いで今度は歴史書を読み漁っていく。

歴史書の新憲法が誕生したちょっと前から読んでいく。

もしかしたらここに異世界人に関する情報があるかもしれない。


ページを次々とめくっていくうちにやがて自分が想像した通りの文言が乗っていることに気が付いた。


「『異世界から来たと主張する人間が国家転覆罪にて処刑、帝国始まって以来初めての国家転覆罪が適応された』…」


そこからさらに読み込むと


「『異世界から転移してきたと主張する人間が金融を支配しようとして逮捕、その後処刑』」

「『異世界から転移してきた変な服装の人物が自分が勇者と主張し城に侵入、重要施設侵入罪と侮辱罪で処刑』」

「『異世界から転移してきたと主張する人間が魔物を引き連れて首都へ侵攻、国家転覆罪として処刑』」


なんとなく全容がわかってきた。

異世界物って国側からしたら唐突に画期的なシステムを導入してきたと思ったらこの世を支配しようとしたり、国の脅威になりうる謎の力を使ってくる子供だったりとかなりやっていることがヤバい。


こうなってくると異世界転移者が処刑対象であるのも頷ける。



だけれど1つ気になることがある。

異世界転移であって異世界転生ではないというところだ。


この歴史書に書かれているすべては異世界転移だ。

もしかしたらこの世界には異世界転移という概念はあっても異世界転生という概念がないのではないか。


というかそもそも俺は、この世界で唯一の異世界転生者なのではないかという考えが頭によぎる。


もしそうだった場合、かなり異世界生活がやりやすくなる。

多少気が楽になったところであたりも夜になってきていたので駆け足で寮に戻ることにした。

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