第19話
「少し、いいかな」
なにやら話しかけられた。少し話して、どうやら俺が大丈夫そうであることを見て取ると、ついてきて欲しいと言われた。
赤城拓人に連れられて向かった先では、白木浩が待っていた。
ここは、応接室とはまたテイストが違うな。執務室とか書斎とか、そういう部屋だろうか。
「まずはすまなかった。年甲斐もなく、熱くなってしまった」
「僕からも謝らせて欲しい。僕の役割は熱くなった浩を止めることだった。なのに僕は、動けなかった」
彼らに対面する席に着くと、まず謝罪から入った。
「いえいえ全然、俺としてもいい経験になりましたし」
「そう言ってもらえると助かるよ」
「今日はウチに泊まっていってくれ。もう結構遅い時間だし、今から帰るのも無理があるだろう。親御さんにも連絡はしておいた」
「お気遣い、痛み入ります」
なんというか、こういうとこで事後報告なのが貴族って感じだなあ。あ、いい意味でね?
「君を呼んだのは、さっきの件と、娘たちを救ってくれた件。その両方に対する謝罪と賠償のためもある」
も、ってことは当然
「だが本題は、君と娘たちについてだ」
「君たちがチームを組んでダンジョンに入る以上、いくつか君に説明しておかなければならないことがあるんだ」
「先にそちらから済ませようか。まず、娘たちの持つスキルは聞いたかな?」
「麻依さんが聖女で、圭さんがガーディアンですよね」
聖女とガーディアンとか、どっちもすごいスキルだ。俺にもちょっとくらい分けて欲しい。
「うん。圭のガーディアンも強いスキルではあるんだけど、より重要なのは、麻依ちゃんが持ってる聖女のスキルの方なんだ。聖女について、何か知っていることは?」
「聖女の効果で、回復魔法と聖魔法についての適性を得ることと、MPが倍になることは聞きました」
「そうか。そこまでは聞いてるのか」
「今のところはそれで間違ってないよ。今のところはだけど」
「聖女のスキルは俺たちにもわからないことが多い。別に直接聖女の誰かから話を聞いたわけでもないしな」
「ただそれでも幾つか分かっていることはある。その一つが、聖女には英雄を選ぶ資格があるということなんだ」
英雄、ねえ。
「聖女は英雄と共にある、ですか」
「西の賢者の『叡智の書』か。さすがだね」
「結構興味深い内容でした」
「まあ、賢者というからには、聖女のことについても詳しいんだろうね。聖女の周りに英雄が現れるのは歴史が示しているし、信憑性は高いよ」
「英雄のスキルを持つものは別に聖女の周りにしかいないわけじゃない。この国に聖女はいないが、英雄はいる。彼らと肩を並べて戦ったことが何度かあるが、異次元の強さを持っていた」
「僕たちとしてはね、君が英雄になるんじゃないかと考えているんだ」
なるほどね。俺が英雄か。
「その根拠は、どこにあるんでしょうか?麻依さんの近くにいる人間が英雄になるというのであれば、俺よりも圭さんや浩さんの方が適任なのでは?」
「聖女が英雄を選ぶのが、どういう基準で、どう行われるのかは俺たちも詳しくはわからない。ただ、一つ確かなのは、聖女は英雄に対して、好意と、信頼を向けているということだ。そして、君に対する娘の胸中は君と話すときの顔を見ればわかる」
「それは…」
めんどくさそうな話だ。
「とはいえ、俺に勝つまでは娘を渡す気は無いがな」
よかった。この流れで婚約だのこんにゃくだのところてんだの言われてたら大変だった。
「まあ、そう言う話は追々するとして、一つ聞きたいことがあるんだけど、いいかな」
「なんでしょうか」
「君はどうやら、宮野詩織と仲がいいみたいだね」
「ええ、友達ですよ」
「彼女の家にも頻繁に行ってるとか」
そこまで割れてんのか。
「仲がいいんですよ」
「本当に、ただの友達なのか?」
「正直、さっきの話の後でこう言うことを聞くと圧力をかけてるみたいになってしまうから、本当は順番を前後させた方が良かったんだろうけどね」
「もし君が彼女と交際してるんだとしても気にしないから、正直に言って欲しい」
「ほんとに彼女とはただの友達ですよ。ダンジョンに入るに当たって、彼女に色々お世話になってるだけで」
「そう、なのか。それならいいんだが」
「ふむ。彼女と仲がいいなら、光耀について何か情報があったりしないかい?」
どう答えるべきか。いや決まってるな。
「申し訳ありませんが、さっきも言ったように彼女には日頃から世話になってるんです。彼女に不利益を与えるようなことはできません」
「それは、どうしてもかな」
赤城拓人の目に凄みが増す。これもスキルだろうか。いや技術か。
「ええ、どうしてもです」
そう言い切ると、赤城拓人の目が和らいだ。
「そっか、無理を言って悪かったね」
「おい拓人、俺が言えたことじゃ無いが、あまり俺らの恩人に失礼なことを言うなよな」
「本当に君が言えたことじゃ無いと思うが、言ってることはもっともだね。すまなかった」
最後の謝罪だけは、俺に向けられた言葉だった。
「別にいいですよ。やっぱり、光耀とは仲が悪いんですか?」
「まあ俺たちは貴族だからな、光耀とも浜匙花とも溝があるんだよ」
「彼女の探索者優遇政策とかは、市民や探索者には人気があるけど、貴族は割りを食ってるからね。まあ僕たちはそれでも、マシな方なんだけど」
「探索者やってたから、政策に共感できる部分はあるしな」
「と言っても最近の政策はやりすぎだと思うけどね。議会の七割がたを押さえられてるせいで、否決はできないし、民意も結果もついてきてるから文句も言えない。でもいくらなんでも探索者への優遇が過ぎる気がするよ」
「まあもともと政党自体も探索者上がりが多いし仕方ないんじゃねえの。まあそんな感じで、そこそこ溝があるんだよ。特に最近は軍部にも制限がかかり始めてるからコイツもなかなか苦労してんだ。許してやってくれ」
「大変そうですね」
探索者への優遇ねえ。
探索者になれなかったので勝手にダンジョンに入ろうと思います @sasakitaro
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