第18話

「一撃、貰っちまったなあ」


 白木浩が言う。


「俺から攻撃していない、更にほとんど動いてないとはいえ、完璧に一撃入れた。見事なもんだ」


「正直、驚いた。まだレベルも一桁とかだろうに。驚いて驚いて、驚きすぎて」


「久しぶりに、滾ってきちまった」


 その瞬間、場の空気が変わった。赤城浩から発される圧が、気迫が、覇気が、全てが物語っていた。これはヤバい。


「お前、それは!」


 赤城拓人が止めに入ろうとするのを、目で制する。

 いま、楽しくなってきたところなんだよ。邪魔しないでくれ。


「さて、今度は、俺から行くぞ。一応、このバリアの中は、ダンジョンのアイテムの効果で、なるべく重傷を避けれるようになってる。まあまともに食らったら体が吹き飛んだりするかもしれんが…お前さんなら大丈夫だろ」


 ああ、レッドキャップと戦った時以来だ。

 いや、レッドキャップ以上だな。

 心が躍っている。


「行くぞ」


 声より早く、白木浩の姿が掻き消える。

 それを見るより先に、反射でワープを発動する。


「これを初撃で避けるか。流石だな」


 あっぶな。一撃で終わるとこだったぞ。


 あ、来る。そんな直感で、またワープを使う。

 白木浩と俺では圧倒的なレベルの差、そしてレベルの差以上にステータスの差がある。

 ダンジョンで鍛えられた超人と違い、ただの一般ピープルに毛が生えた程度である俺では、動きの出を見てからスキルを発動しても間に合わない。

 まあだから要するに、攻撃を避けるためには事前動作すら行われる前にスキルを発動する必要があるわけだ。

 はは、楽しくなってきたなあ!

 向こうも温まってきたのか、怒涛のラッシュが押し寄せ、ワープした先から、斬り込まれる。

 それを、連続のワープで回避する。分身は剣の一振りで全部裂かれるので使わない。

 さっきから、剣圧だけで、身体に裂傷が出来ている。

 ほんと、とんでもない力だ。

 俺の視界が暗転したのは、それから数秒後のことだった。

 やっぱりダンジョンだな。




「あ、起きたー?」


 ここは…どっかの部屋だ。ぶっ倒れて、運ばれたのか。この部屋は流石に応接室ほどじゃないけど、どこぞのホテルのスイートルームみたいな風情があるな。客室かなんかだろうか。

 そして、俺はキングサイズとかそんな感じのベッドの上にいた。ご丁寧に着替えまで済まされている。


「どう?意識ハッキリしてる?あたま大丈夫?」


「大丈夫大丈夫」


「君、浩さんと戦ってる時にいきなり倒れたんだよ。急に意識失うもんだから、みんなあわてて大変だったんだから」


「パパが言うにはMPが切れた状態で何度もスキルを使い続けたせいなんだって」


 途中から、スキルバンバン使ってたからな。俺のMPで使える限界を大きく超えていた。アドレナリン出まくってたから特に何も感じなかったけど、普通の時には出来ないな。

 現に今も頭と全身がズキズキいってる。


「パパの診断が間違ってるとも思えないけど、今日は安静にしてなよねー」


「うん、ありがとう」


「お礼なら、そこで寝てる子に言ってあげてよ」


 そういって、ベッドにもたれるように寝ている白木さんを指差す。


「麻依、君が倒れてからずっと付きっきりだったんだよー?ずっと回復魔法使い続けて、疲れて眠っちゃったんだから」


「それは、感謝しなきゃだね」


「そうだよ、私になんかお礼を言ってる場合じゃないんだよ」


 そういって、赤城さんは俺からの礼を固辞しようとする。でも、


「でも、いまここにいるってことは、赤城さんもずっと付きっきりだったってことじゃないの?」


「それは…そうだけど」


「なら、赤城さんにも感謝しなきゃいけないね」


 そう言うと、赤城さんは俯いた。


「麻依がね、ずっと頑張って魔法をかけていたのは、君のことを心配してたって言うのもあるけど、それと同時に、自分の役目を果たしたいって言う思いがあったんだと思う」


「君と私たちが最初に出会った時。あの、赤いモンスターに私たちが殺されそうになった時。私たちは、何もできなかった。戦うことも、逃げることも、声を上げることすら」


「本当なら、私が守らなきゃいけなかったのに。ガーディアンなんて大層なスキルをもらっておきながら、私は、なにも守れてない。今日も、浩さんが猛虎邁進を使った時点で割って入るべきだったのに」


 ああ、やっぱり使ってたのか。ステータス3倍とか言うぶっ壊れスキル。道理で、流石にちょっとおかしいと思ってたんだよな。


「私たちは、チームなのに。麻依は、自分にできることを精一杯やって、疲れて眠るまで頑張ってたのに。私は、私は何もできなかったの」


「レッドキャップにやられて、君に助けられて、でも、私はまた動けなかった」


「だから、私にお礼を言われる資格なんか」


「そんなことはないよ」


 さて、どう言葉を紡ぐべきか。


「レッドキャップの時はともかく、今日のは俺が望んだ試合だからね。赤城さんが気に病む必要はないよ」


「それに、助け合うのがチームなんだから、みんなが、自分にできることで、チームに貢献していけば、それでいいんじゃない?」


「…うん、そだね」


「それに、少なくとも俺は、赤城さんが側にいて欲しいと思うけど」


「…」


「イテっ」


 なぜか無言でデコピンを喰らった。ステータスで負けてるので普通に痛い。


「年下のくせに、生意気」


「一応病み上がりなんですけど」


「別に病んでたわけじゃないでしょ?」


 いい塩梅だな。解決はしてないだろうけど、若干マシ。流石に調整が上手いなあ俺。


「それと、圭でいいから」


「?」


「呼び方。赤城さんってまだるっこしいでしょ?パパも赤城さんだし」


「わかった。よろしく、圭」


 なぜかもう一撃もらった。

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