第17話

 なんやかんやで、白木浩と手合わせすることになった。


「君を萎縮させないためとか言ってママ達を来させなかったのはこれのためだったんだねー」


 赤城さんが言う。どうやら彼女達の母親はわざわざ外に出ていたらしい。彼女らが居たら俺に手合わせなんて絶対させなかったとか何とか。

 レベルの高い探索者と手合わせできると言うのはこちらとしても願ってもないことだったので、喜んで引き受けたら、とりあえず場所を変えることになった。

 応接室を離れて、やってきたのは訓練場。

 にしてもやばいなこれ。大きさもそうだけど、設備がやばい。最新鋭の技術に、ダンジョンからのドロップ品が山盛りである。

 軍かなんかですか?そういや軍閥のトップだったわ。


「お父さまは優れた探索者であると同時に控えめに言っても戦闘バカだから、いつでも訓練できるようにって探索者時代の稼ぎを費やしてここを作ったんだよ」


 とは白木さんの言である。いくらかかったんだろうなこれ。百億は超してそうだけど。


「本当に戦うの?いくら君でも、流石にまだ勝てないと思うよ?」


「嫌なら嫌って言っていいんだよ?言いづらいならお父さまには私から言うから」


「別に嫌とかじゃないよ。むしろ、楽しみなくらいだ」


「…なら良いんだけど」


「それより、浩さんのステータスについて聞きたいんだけど」


「それは、僕から話そうか」


 と、何もないところから声がしたと思ったら、急に近くに赤城拓人が出現した。

 スキルだろうか。


「いいんですか?浩さんの応援は」


「あいつに応援なんかいらないさ。それに僕は、あいつが勝つ姿よりも負ける姿を見たい」


「なるほど」


 まあどんな理由にせよ、実際にチームを組んで一緒にダンジョンに入っていた仲間から情報を得られると言うのはありがたい。


「あいつの戦闘スタイルは、剣術主体の近接戦闘。ステータスは魔力とmpが低くてそれ以外が高い」


 パワーファイターって感じだな。まあ魔力が低いとか言いつつ俺の数百倍はありそうだけど。


「そして当然、幾つものスキルを持っている。その中でも特筆すべきものは3つ。一つは猛虎邁進。メチャクチャMPを食うが、使用中魔力以外の能力を3倍にする」


 いや3倍って。親もぶっ壊れか。


「一つはプレデターアイ。魔力や力の流れが見える、というか感じられるらしい。だから、スキルとか魔法とかを使うとバレる。不意打ちとかしてもバレたりもする」


 なんとまあ。スキルを見破れるんだったら俺詰んでるのでは?


「最後に…うーん、いやまあ、これはいいか。剣を使った大技があるんだけど、撃たれたら防ぎようないし。流石に使わないだろ、死んじゃうし」


 何それ怖い。


「うん、まあ、使いそうになったら僕が間に入るから」


 ありがてえこって。

 さて、じゃあ情報も頂いたことだし、腕試しと行きますか。


「作戦会議は済んだのか?」


「ええ、待たせちゃってすみません」


「気にするな。俺としても、楽しめるほうがいいからな」


「さて、ただの立ち会いだからな。あんまり厳格にルールとかを決める必要はねえと思うが、まあとりあえず、相手を殺すのは無し。なるべく重傷は避ける。そんくらいか」


「ええ、それで大丈夫です」


「まあレベル差があるからな、あんま俺からは行かねえから」


「胸をお借りします」


 結界に囲まれたフィールドに距離をとって立つ。この結界も高そうだなあ。何かのアイテムなんだろうけど、いくらするんだろう。


「じゃあ、審判は僕がやろう」


 といって拓人さんが俺たちの間に立つ。


 開始の合図と同時、俺だけが動き出す。どうやら、浩さんは見に回ってくれるようだ。

 とりあえず、様子見でナイフで持って切り掛かる。

 まあ、なんというか、児戯に等しいというか、軽くあしらわれる。

 浩さんが持っているのは、ダンジョン産じゃない普通の剣。刃渡り的に俺のナイフの数倍は重いはずだが軽々と振っている。

 浩さんの剣がナイフに触れる瞬間、浩さんの死角にワープする。

 とりあえず、首狙うか。

 ギィィンという鈍い音と共に、俺のナイフが跳ね返る。

 なるほど、見えてるってわけか。


「それが、君のスキルか。中々有用そうだな」


 アンタには全く通じてないけどな。

 さて、じゃあ次は分身も使うか。自分に重ねて、分身を発動する。分身と一緒に四方八方から攻撃するが、ダメだな。完全に見切られてる。

 本体以外が攻撃できないこともバレてるし。

 ワープを使って入れ替わってもバレる。


「もう手札は切れたか?それじゃあ俺には指一本触れられないが」


 さて、もう一度。分身を出しながら攻撃を仕掛ける。

 そして、頃合いを見て、ワープを発動する。


「またそれか。それは通用しないと…ッ!」


 浩さんの剣が空振り、俺の分身が消滅する。

 その背後から首目掛けてナイフを立てに行く。

 これは流石に、ガードできないだろ。


 そして、また、鈍い音が響いた。今度は、剣とナイフがぶつかる音ではなく、皮膚とナイフがぶつかる音だった。

 ノーダメージってか、こっちが跳ね返されんのかよ。

 やっぱり、探索者って化け物だな。

 まあでも、指一本分くらいは触れたでしょ。

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