第15話

「はい、これ」


「ありがとう」


 詩織が手渡してきたのは、指輪と、書類。

 レッドキャップが落としたアイテムの鑑定を詩織を通じて頼んでおいたのだ。俺は探索者じゃないから俺が頼むとどこから入手したのかって話になっちゃうからなー。


「名前は赤血の指輪、らしいわ。精神系の状態異常に耐性を与えて、特に恐怖系への耐性レベルは6と高い。売ったら高いわよ」


 アイテムがもつ効果は一から十までのレベルで表される。普段俺が戦っているゴブリンたちが落とす装備にはなんの効果もないし、ブルーゴブリンですらレベル1とかしかついてないことを考えると、流石レアモンスターのドロップだけある。多分売ったら数千万くらいはしそうだなあ。耐性系の装備大人気だから。


 まあとりあえず鑑定書に目を通しときますか。この鑑定書には、スキルに鑑定系を持つ探索者がスキルで見た内容が記されている。

 鑑定士をやるためには自分のステータスやスキルを詳らかに公開する必要があり、そもそも鑑定系のスキルが少ないこともあって成り手が少ない。

 そんな鑑定士に鑑定してもらうのは結構めんどい。いやーさすが人気探索者。こんな早く帰ってくるとは。

 なるほどね。


「それで、なんか話あるんだよね?」


 まあこれだけなら学校でもいいみたいなところもある。わざわざ家まで呼ばれたからには他になんがあるんだろう。


「ええ。前々から話してたことだけど、上級ダンジョンの下層まで潜ることになったわ」


 ふーん、ついにか。思ったよりは早かったが、それはリーダー殿が手を回したんだろうか。詩織と俺を一緒にさせときたくないだろうしな。にしても、下層ねえ。

 ダンジョンは、初級、中級、上級とダンジョンごとに大まかに3つに分類される。初級の中でも、さらに簡単なのは初心者ダンジョンとか言われたりするが、それは置いといて。

 さらに同じダンジョンの中でも、深く潜れば潜るほど、敵のモンスターは強くなっていく。中ボスだったり階層の構造の変化とかで区切ってそのダンジョン内でも上層中層下層と難易度を分けて呼んだりもする。

 上級の下層ともなれば、とっても強い敵がとってもいっぱいいるはずだ。上だの下だのややこしいな。


「へえ、すごいじゃん。いつから?」


「次の探索からだから、多分、来週には出発することになるわ。他のクランとの合同での探索だし、戦力的にも多分危険はないでしょうけど、次に地上に戻ってくるのは、早くても2ヶ月後でしょうね」


「そっか、それは寂しくなるね」


 挑戦する上級ダンジョンはどこなんだろうか。富士はないだろうし、出雲もない。他は対策がめんどくさいとこばっかだし、やっぱ新宿か?海外っぽくはないけど。


「心配、してくれないの?」


「なんで?帰ってくるんでしょ?」


「…ええ。もちろん」


「やっぱり、不安?」


「そう、ね。期待の新人なんて言われていても、結局同世代の中で少し恵まれていただけだし、ずっと探索者をやっている先輩方と比べたら、レベルも100どころじゃない差があるわ」


 俺は詩織と比べても1000以上差があるわけですが。


「私以外の人はみんな、私よりもずっと強い。そんな人たちの足を引っ張らないか、心配なの」


 そんなこと言ったら俺の周りには俺より強い奴しかいないが?


「まあ確かに、レベルや経験では負けてるかもしれないけどさ、それが詩織の方が弱いってことにはならないんじゃない?」


「でも、」


「それに、詩織が選ばれたのは、詩織が足手纏いにならないと思われてるからだし、そう期待されてるからだよ」


「確かに、そうかもしれない」


 まだ、納得してないな。いや、違うなこれ。


「詩織はさ、逆なんじゃない」


「逆?」


「足手纏いになるのが怖いんじゃなくてさ、他の人に並んじゃうことが怖いんじゃないの?」


「…私は、わたしは、半年前に探索者になったの。たまたま強いスキルを持ってて、色んな人が気にかけてくれて。

 でも、私に探索者のノウハウを教えてくれた先輩のレベルを、1ヶ月ちょっとで追い越しちゃって、その後も、みんなより早くレベルが上がって、みんなより早く強くなった。

 ただ、ちょっと人より強いスキルを持ってるってだけで、みんなより早く強くなって、期待されて、もてはやされて!」


 彼女が探索者になる前、彼女はただの15歳の少女だった。恵まれたスキルとステータスは彼女からそんな普通の少女である自由を奪っていったのだろう。

 持つものの悩みって奴だね。


「期待の新人なんて言われても、ちょっと前まで中学生だったのに、どうすればいいのかなんてわかんないわよ…」


 力なく項垂れる彼女に、なんと声をかけるべきか。まあ、励ます方で行くか。


「詩織は頑張ってるよ。たった半年で上級ダンジョンまで行って、メディアにも出て。その上深層まで行こうっていうんだから」


「だから、あんまり頑張り過ぎなくてもいいんじゃないかな」


「でも、私は」


「うん、だから、俺といる時くらい気を抜いてればいいんじゃない?ダンジョンに居る時も、寂しかったら電話してきてよ。電話が繋がるかはわかんないけどね」


 下層とか電波通るわけなさそう。


「うん、ありがとう。少し吐き出して楽になったわ」


「あと、この指輪あげるよ」


 そう言ってレッドキャップのドロップを示す。


「いいの?」


「うん、俺だと思って大事にしてよ」


 俺には要らなそうだからなあこの指輪。あと、多分詩織にあげた方がいい。鑑定書が本当ならだけど。


「ん」


 そう言って左手をこっちに向けてくる。

 着けろと?


「意気地なし」


 中指に着けた俺に対する文句か?なんで文句言われてるのかさっぱりわかりませんね。


「まあ、そっちの指はまた今度かな」


 そういうと、彼女は微笑んだ。


「ええ、ありがとう。大事に、するから」

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