第11話
スキルには、当たり外れがある。だから、探索者になりたいと夢見る人はレベルを上げる前に神頼みするらしい。巷にはダンジョン所縁の神社とかあるんだとか。いやほんとかよ。
ともかく、その点で考えると、ワープはハズレの方に分類されるスキルだ。効果の汎用性や拡張性が少なく、元々の効果も強くない。
スキルの強さを決めるのは使い手だとか、詭弁を言う奴もいるが、まあ詭弁だ。
確かに弱いスキルを強く使う奴はいるけれど、当然強いスキルを持ってたらもっと強く使えているはずだ。
スキルに強い弱いは、明確に存在する。
さて、それで、なんか捻った名前してるスキルは強い、と言われる。賢者のスキルを得た者は世界大戦を終わらせたし、英雄のスキルを手に入れた人間はそれこそ英雄的活躍をする。
そういう、名前を見ただけじゃパッと効果がわからない感じのスキルは、大体の場合複数のスキルを包含したような効果をしていたり、他とは似ても似つかないような効果をしていたりする。
聖女のスキルにステータスの強化や魔法適性がついてるみたいに。
そして、その中でも、聖女は大概だ。
なんせ、英雄を生み出せるんだからな。
「俺からも頼むよ。俺と一緒にダンジョンに潜って欲しい」
そう言うと、彼女達はパァーっと顔を明るくさせた。
「よかったー!」
「私たち、家の関係者以外に探索者の知り合いがいなかったから心強いよ」
「そうだ、これからチームを組むんだったらその辺の話も聞いておきたいんだけど」
この前は意識的に彼女達の事情を聞くのを避けたが、これから一緒にダンジョンに潜る以上そうもいかない。彼女たちの親と会う約束もしたことだし、聞いておかなきゃ。
「そうだね、話さなきゃ。…いいよね、圭」
「んー、さすがにもう言わなきゃだよねー」
赤城さんのその言葉を肯定として受け取ったのか、白木さんは話し始めた。
「私たちの家って、貴族なんだよね」
貴族。この国では、数百年前から存在する特権階級の一つだ。貴族は税金とか大学入試とかバイトの面接とか色々な面で優遇を受けている。
とはいえ、探索者が居る今となってはそこまで庶民と距離は感じない。昔と違って不敬罪とか無くなったし。
「なるほど…敬語使った方がいいでありますでしょうか給う」
「いろいろ間違ってるし、敬語は使わなくていいから。…なんか、距離を感じて悲しいし」
「あはは、そんな畏まらなくていいよー。どうせ貴族なんて名ばかりだから」
名ばかり、ねえ。まあ、
「
「やっぱり、分かるんだね」
「そりゃあ、そこまで言われたらね」
五色、または五色備え。軍部の大部分をを占める五家の総称。それぞれが色の名を冠した貴族家で、ダンジョンと探索者の台頭によって力を失いかけている貴族家で、今なお大きな力を持つ彼らを知らない奴は、多分モグリかテレビでバラエティしか見てない。
にしても疑問だ。なぜ彼女達は護衛も付けずに行動していたのか。
「疑問だよねー。どうして私たちが護衛も付けずにダンジョンにいたのか」
赤城さんが言う。
「答えは簡単で、強くなれないからなんだ。ダンジョンに関する研究は、大部分が秘匿されているけど、その内の一つにスキルやステータスに関する研究結果があるんだ」
ダンジョンに関連する研究は、政府によって厳格に管理されている。当然、研究結果も。世の中に広まっているダンジョンに関する言説は大概の場合どこかの機関が公開したものか、経験則から来る噂かだ。
「ダンジョンでレベルを上げるとき、近くに仲間が多すぎたり、強すぎたり、あとは敵が格下のモンスターばかりだったりすると、ステータスの伸びは悪くなるし、スキルも弱くなるらしいの」
へえ。ゴブリンですら格上だった俺じゃ関係ない話だ。
「だから、私たちは私たちプラス分家の子たち3人だけで一緒にダンジョンに入ったってわけ。もちろん、ダンジョンの外にはウチの護衛とかが見張ってたりしたんだけどね」
ふーん。しかし、ならなんでそいつらは助けに入らなかったんだ?
「どうやらあのレッドキャップは相手に恐慌の状態異常を与えるスキルを持ってたらしくて、そのせいで分家の子達は逃げ出しちゃったことになったんだ」
事実はどうあれ、ね。
まあ多分、あいつがデバフ系のスキルを持ってたのは事実だと思うけど。最初の方ちょっとだけ寒気と動きづらさを感じたし。
レベル差のせいかと思ってたけど、状態異常なら納得だ。
「助けを呼べば良かったんだけど、恐慌のせいで動けなくて、そこに君が助けに来てくれたんだ」
「でもスキルを使われたと言っても守るべき相手を置いて逃げたのは事実だから、不利益にならないように揉み消すことになったんだ」
「ごめんなさい、本当のことを言えなくて」
「しょうがないよ、人間話せないことの一つや二つあるしね」
というか、今が話しすぎなんだよな。匂わせるくらいでいいのに。
こりゃもう完全に逃す気なさそうだなあ。
「また、あなたの身辺についても調べさせてもらいました。命の恩人に対して、私たちは恩を仇で返すようなことをしています。赤城、白木両家を代表して重ねて謝罪します」
「申し訳ありません」
2人が揃って頭を下げる。なんかこんな感じの体操あったな。
「べつに、いいけど。調べられて困るようなことはあんまりないし。あと、敬語やめてよ、距離を感じるからね」
そう言うと2人は顔を上げた。
「…ありがとう、重ね重ね申し訳ないんだけど、もう一つだけ聞いてもいい?」
「クラン光耀のリーダーとは、どう言う関係なの?」
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