第9話
浜匙花は未来が見える。
彼女が未来視のスキルに目覚めたのは、レベル15の時だ。それ以降のダンジョン探索において、彼女の仲間が死んだことはない。
彼女の未来視のスキルは、日々成長を続けた。最初は数秒先しか見えなかったものが、数分、数日、数年と変化していき、朧げだった未来が、鮮明に。
自分の行動によって未来がどのように変化するかすらも見ることができた。
そんな彼女は、未来視のスキルによって、破滅を、絶望を、地獄を見た。
だから、動くことを決めた。彼女の生来の善性がそうさせた。総理大臣になったのも、クランを作ったのも、その一つだった。
そんな彼女をして、目の前にいる少年に困惑していた。彼女の未来視では、彼女が認識していない人間は未来視の中でも、黒いモヤで包まれて映る。だから、対面するまで分からなかった。
彼が、ここまで多くの未来に関わり、ここまで多くの可能性を持っていることに。彼女の未来視は絶対ではない。未来を見て何もしなかったとしても勝手に未来が変化する可能性もある。
だからといって、天気予報を外すことはない。それと同じで、人にも、いくら未来視でも変えられない芯がある。
どれだけ道を探っても協力できなかった者もいるし、どう手を尽くしても最終的に罪を犯すものもいた。
だから異常なのだ。英雄になる道も、悪に染まる道も、世俗に溺れて一生を終える道もある彼が。
本来ならこんなにも、不確定すぎる人間は始末しておきたい。リスクはなるべくなら消しておきたいからだ。
しかし、それはできない。
彼をここで殺せば、聖女とその守護者が敵に回る。詩織は敵対とまではいかないが、それでも、疑心に苛まれる。それ以外にも多くの悪影響が出てしまう。
聖女と敵対することだけは、許容できない。やはり、未来視のスキルを明かしてでも、聖女を保護しておくべきだったのだろうか。
しかし、今ですら各国の諜報機関にマークされているのだ。これ以上隙を晒せば、最悪戦争になる。
まあ、ただ、最初に未来視を持っていることを告げれば、彼が悪に染まることは9割がた無くなる。
今は、そうするしかない。
できることなら、聖女に選ばれた彼には英雄になって欲しいものだが。
俺からの質問はもう特にないので、総理の話を聞こう。
「さて、単刀直入に言おう。君がいま保留にしている話を受けてくれ」
なるほど。
「報酬は?」
「安全」
「乗りましょう」
「期限は未定だ。まあ、最長でも2、3年だ。嫌になったら辞めてくれてもいい」
短いなあ、俺の余命。
「わかりました」
「今まで通りで頼みたい」
「りょーかいです」
なんともまあ、なかなか面白くなってきたな。
「ちょっと、説明してよ」
と、さっきから話についてこれなくて不満そうにしていた詩織に言われたので、二日連続でカラオケに行くことになった。
ワンドリンクが届いてから、説明を始める。
「ことの発端は昨日。渋谷の初心者ダンジョンに行ってた時に、一層でレッドキャップが出たんだよ」
言いながらココアをチューチューする。やっぱりアイスだな。
「レッドキャップって、レアモンスターじゃない。珍しいこともあるのね。私は知らなかったのだけど、誰が討伐したの?」
「俺」
そう言った瞬間凄い勢いで詩織がこちらに顔を寄せる。
「!?ばか!怪我は!?何でいっつもそう言うことばかりするのよ!」
「怪我はないよ、攻撃も掠ってすらいないし。保険だってあったんだから」
「…はぁ。ちょっとは心配するこっちの身にもなりなさいよ」
「いやー悪い悪い。で、俺がレッドキャップのところに行った時に、襲われてる人がいたわけ」
「…女でしょ」
「正解、よくわかったね」
「はあ、で?その襲われてた人がさっきのリーダーとの会話にどう関わってくるわけ?」
「その子、聖女だったんだよ」
「はー!?」
今日イチの声量だった。
「これ、内緒にしてね。できればスキル的なプロテクトもしといて」
「分かってるわよ、でもそんな重大情報、私に話して良かったの?」
「リーダーさんが忠告してこなかったしいいんじゃない?それに、詩織にだけは話しときたかったんだよね」
「そう、それなら…いいんだけど」
「で、さっきのリーダーさんとの会話で出てきた保留してる話っていうのがその助けた2人からチーム組まないかって誘われたことなんだよ」
「なる、ほど。繋がったわ。要するに、ウチと関わりが浅くて何の背景もないあなたに護衛をさせようって話ね」
「そういうことだね。レベル上げを手伝うって言うのもあると思うけど」
それだけじゃないし、それはオマケだが、今ここで俺を殺すかどうかあの総理が検討しているであろうことを言って詩織に疑心を抱かせるのはマイナスだ。
ほんとうに、未来視とは厄介な力だ。なんせ過去を考慮して動かなきゃいけないんだから。
「まあ、そんなとこだよ。聖女様たちに会わせてあげたいとこだけど生憎それは無理だからな」
「それをしたらあなたが受けた依頼の意味が無くなるわね。でも、本当にいいの?あなたはうちのクランのメンバーでもないし、断ってもいいのに」
「まあ、俺にもメリットのある話だしね。探索者じゃない俺には、仲間なんて持てないと思ってたし」
「…ごめんなさい、本当ならわたしが、あなたのそばにいるべきだったのに」
「謝らないでくれ、さて、せっかくカラオケ来たんだし歌うか!」
今日はロックを歌った。
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