第8話
さて、今日は日曜日。世間では浮かれ気分でスキップしてたり、疲れ気分でスリープしてたりするんだろうが、生憎俺には予定があるのだ。
結局昨日、彼女達を助けた後は、ダンジョンを脱出して一緒に昼飯を食いにいった。赤城さんがなぜか俺のジャンクフードまみれのチョイスに一生ケチつけてきたので、厳正なるじゃんけんの結果、結局某有名イタリアンチェーンになった。
その後も俺バーサス2人でお子様ランチメニューの間違い発見数勝負をして、完全勝利して、流れでカラオケに行くことになって声が枯れるまで歌った。ほんとなら、インディーロックとか歌いたかったが流石に自重した。それにしても、女子高生の体力は恐ろしい。死にかけたばかりと言うのに、いや死にかけたからこそか?
それはさておき、今日は光耀のクランリーダーと会う日だ。なんといっても国内有数どころか、ほとんどトップのクランのさらにトップだ。こわそー!
「じゃ、案内よろしく」
「任されたわ」
今日は詩織も一緒だ。俺が泣きついて一緒に行ってくれることになった。
考えてみると、私服の詩織は新鮮だ。白いショルダーバッグを下げて、青いワンピースに身を包み、いつもはつけていないマニキュアや、いつもと違う香水まで付けている。
「もし、なんかあって殺されそうになったら助けてね?」
「検討しておくわ」
「いや、ホント、まじ頼みます」
詩織に見捨てられたら死ねる。マジな方で。
「あなたが悪くない限りは、まあ、守ってあげるわよ」
さすが詩織さん。俺が見込んだだけある。
「さ、早く行くわよ。リーダーは忙しいんだから」
「へいへい。あ、そうだ」
「なに?」
「そのワンピースかわいいね、似合ってる」
光耀の本部は、ガチでデカかった。ビル一つがまるまる所有されていて、一つ一つの調度品も高そう。さすがトップクラン、金がある。
中に入ると、詩織と一緒に受付へ向かうが、顔パスで通される。流石に若手のホープでメディアへの露出もあるだけあって、道ゆく人にも挨拶されている。探索者だろうか。
なぜか知らんが、応接室とかではなく、クランリーダー室まで通されるらしい。なんでだろう。
「入ってくれ」
「失礼します」
詩織がドアをノックするより先に、部屋の中から声が響く。
探知系か?透視とかの可能性もあるな。
「さて、初めまして。私はこのクラン、光耀のクランリーダーの浜匙花だ。まあ、流石に私の顔くらいは見たことがあると思うがね!」
そう言って快活に笑う女性。そらあんたの顔は全国民が知ってますよ、総理大臣なんだから。
浜匙花、元一流探索者だった彼女は、現在では一線を退き、リーダーとしてクラン光耀を運営しながら後進の育成を行い、その傍らで、政治家活動を開始。若くして総理大臣まで上り詰めた女傑である。
今の世界情勢は色々きな臭いしな。世間が求めていたのは強くて力のある政治家だった。探索者から転身して政界デビューを果たした彼女は、一切の失策もなく支持率も九割超えだ。
さて、俺も自己紹介を
「ああ、自己紹介はしなくていいぞ。もう聞いたからな」
ふむ、これは…
「っ!リーダー!?」
横にいる詩織が慌てている。なるほ
「そうだ」
彼女から返ってきたのは肯定だった。本当に、未来を知っているのか。心を読んでいる可能性も、ない。俺の思考が追いつく前に言われた。
「リーダー、よかったんですか?」
「詩織、これが最善だ。そう、私が判断した」
「分かりました」
にしても、これは光耀でも全員が知ってるとか言うわけでもなさそうだな。それを知らされてる詩織も大概だが。ふむ。
「一つ、質問をしても?」
「…いいだろう」
質問の内容は、そうだな。
「好きな色は何ですか?」
途中で遮られることもなく、質問が通る。これはまあ
「…分からない」
底が見えたな。たっぷり間を置いて、彼女が言った。どうやら彼女の未来視は、万能ではないらしい。
この質問の正解は、アルマジロだ。これを当てられてたらもうお手上げだった。正直に生き、善行をして徳を積み、彼女の指示に従うつもりだった。
分からないは、不正解の中では一番いい答えだ。サンカクってとこだな。他はバツ。
どうやら彼女のスキルでは、望む未来からすべき行動を逆算できたりはしないらしい。それが分かったのは大きい。
詩織を連れてきてよかったな。おかげで俺の眼だけでなく、詩織の眼も通して浜匙花を測ることができた。十中八九、浜匙花は善人だろう。
そうなると必然、俺に未来視を教えた理由にも見当がつく。牽制だろう。少なくとも今この瞬間俺は決意したからな。悪いことをするなら浜匙花にバレないようにやろう、と。まあただより良い未来になる方の行動をとっただけかもしれないが。
多分彼女の未来視は、自分の視点で未来に得る情報を手に入れるスキルだ。自分がこういう行動した場合は、こういう未来が待ってるよと教えてくれるタイプだろう。
だから彼女は正解を当てることができなかった。彼女の答えの選択肢にアルマジロがなかったからだ。
ただそれでも、未来視とか言うのがとんでもスキルであることは確定だけどな。普通に反則だろこんなん。
「参考になったかな?」
「いえ、全く!」
笑顔で返答する。どうしたんですか、総理。汗がひどいですよ?
ひょっとして、悪夢でも見ました?
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