第6話
レッドキャップと相対する。正直な話、レッドキャップを殺すのは簡単だ。フラッシュバン以外にも持ち込んでいるものはあるから、無傷で殺すこともできるだろう。
しかし、しかしだ。そんなのなにが楽しいんだ?俺の目的はレベルを上げることじゃない。金を稼ぐことでもない。
目の前には今の自分より強い敵がいて、そんな敵と周囲を警戒せずに一対一ができる状況だ。こんなの、最高じゃないか。
「俺を楽しませてくれよ、レッドキャップ君」
「すごい」
白木麻依は、先ほどまでの恐怖を忘れて呟いた。横にいる、親友の赤城圭も、同様に目を奪われていた。
彼女たちがダンジョンに来た理由は、些細なことだった。クラスの男子たちが、探索者になってダンジョンに入っていることを武勇伝のように話していて、それに興味を示した結果、とんとん拍子に話が進んでダンジョン探索に同道することになったのだ。
最初は順調だった。初めはゴブリンを殺すのにも忌避感や抵抗があったが、ダンジョンという環境がそうさせるのか次第に慣れていって、少しずつ奥まで進んでいった。ひと段落つけて一度外に出ようかという話が出ていたその時だった。
赤い帽子の悪魔が現れたのは。
そのモンスターに対して5人は総がかりで攻撃を仕掛けたが、レッドキャップは歯牙にもかけなかった。
強さの差もそうだが、それよりも彼らの心を折ったのはレッドキャップが明確な悪意を瞳に宿していたことだった。
彼らが自分たちを置いて逃げ出したことも責められない。自分がその立場ならそうしなかった自信がないからだ。
そして、ニタニタと顔を歪めながら近づいてきたゴブリンに、これから始まる拷問を考えて身を震わせていたその時、彼がやってきた。
いきなり目を閉じろと言われて、疑問を持つこともせず従うと、辺りが白く光るのがわかった。多分、閃光弾のやうなものを使ったんだろう。
彼の装備は、自分たちよりも少しだけガチなように見えたが、それでも動きからしてレベルもステータスも自分たちと大差ないように見えた。
最初は、逃げて欲しかった。私たちを見捨てて逃げた彼らのように。
自分のせいで誰かが傷つくのが嫌だった。
でも、彼は強かった。動く速さは私たちと変わらないのに、自分たちが手も足も出なかったあの悪魔を、まるでただのゴブリンかのようにあしらっている。
レッドキャップも、私たちの時と違い彼をちゃんとした敵としてみなしている。なのに、当たらない。彼の動きは速くない。レッドキャップと比べると倍は遅い。それでも。
私たちと、変わらないレベルでも、圧倒的な格上を圧倒してしまう彼の姿が、私にはとても眩しく写っていた。
レッドキャップは、速かった。俺の倍以上の速さだ。その上、ステータスの差がデカすぎるので一撃でももらったら、たとえ死ななくても致命傷だろう。
そして何より、こいつは他のゴブリンと違って知性がある。
ナイフを持っている右手を見つつも、空いている左手にも警戒している。俺より賢くはないだろうけど、そこらのゴブリン10匹分くらいの知能はありそうだ。
ゴブリンとほぼ同じ身体構造なのに、不思議だな。
まあでも、言って仕舞えばそれだけだ。レッドキャップはナイフを持っていて、掠っただけでもだいぶマズイだろうが、掠らなければいい。
最初が一番やばかったな。イメージはしていても、実際に体験してみるとやはり違う。
それでも、何度か見れば慣れる。後は、最初につけた傷も良かった。先制攻撃が完全に決まったおかげで、向こうが俺を警戒してくれた。
左手で何かする素振りを見せるだけで動きが鈍るんだから、知性があるのもいいことばかりじゃないな。
「ゴブ、ゴブゥゥ」
見るからにレッドキャップの息が上がっている。出血しながら激しく動いていたらまあ当然か。
…目が、変わった。どうやら覚悟を決めたみたいだなあ。遅すぎる気もするが。
「ゴブ、ゴバァァァァ!」
レッドキャップは、俺に突進してくる。左手への警戒も、自分の命も捨てて、俺を殺すためだけに。
レッドキャップの身体をナイフで切り裂くも、レッドキャップは止まらない。左手で俺を掴み、右手のナイフを振りかぶる。
文字通り差し違えるつもりだ。
さて。
「ワープ」
レッドキャップのナイフが空を切る。他の生物に触れられていても自分を対象にワープを発動できるのは、ゴブリン相手で確認済みだ。
最初につけたレッドキャップの傷部分に、ナイフを深く突き立てると、レッドキャップは茫然とした顔で、光の粒子になって消えた。
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