第5話

「…また、昨日と比べ何やかんやで円高が進んでおり…」


 何となくつけたテレビでは、知らないアナウンサーがこの国の経済について論じている。正直な話、大多数の人間にとっては実感の湧かない話だ。円高が進んでいるのはいつものことだが、だからといって物価が上がっているわけではない。ダンジョン関連技術のせいだ。

 ダンジョンから出てくるアイテムの効果もあるが、それ以上にスキルというものが大きすぎる。

 スキルは別に全部が全部戦闘用というわけではない。というか俺のスキルも別にガッツリ戦闘用というわけではないしな。

 非戦闘系で一番有名なのは、アメリカの一般人が獲得した「明白な天命マニフェスト・ディスティニー」とかいう奴だ。

 …なんか名前に含みを感じるが、ダンジョンはたまにこういうことをする。

 まあともかく、このスキルの効果は、自分の指揮下にある人間の作業効率を倍にするというもので対象は1000人までとか言われているぶっ壊れである。効果も大概だが、対象人数がおかしい。要するにこのスキル一つで1000人分の仕事ができるということだ。

 しかもその職について何の経験もない人間が。流石にここまでのスキルは滅多にないが、それでもスキルが社会に与えた影響は大きく、ステータスやスキルが社会的価値を持つのもこういうののせいだ。

 まあそのせいで物価安やリストラの横行につながって、大ダンジョン時代になったりしたのだが、そこらへんはまた今度にしよう。

 とりあえず、オムレツはプレーンが一番いいと思うの。


 さて、今日も今日とてダンジョンに入る。いくらダンジョンに入る許可を得たとはいえ、法律を破る気にはなれないので今日もワープを使ってダンジョンに入る。


 ふいー。ゴブリンを30匹ほど狩り殺すとレベルが上がった。いやーこの調子なら今日1日だけで200匹以上殺せそうだな。新しく手に入れたスキルもあることだし。


 ゴブリンを殺した後の小休止を終えた俺が、次なる獲物を探す旅に出ようとした時だった。

 通路にガチャガチャと足音が響いた。

 人数は3人、か?いや奥にも気配がある気がするな。しかしこんな襲撃もないだろう。撤退、逃走か?でもこの階層はゴブリンしか出ないはず。いや、まさか。

 そこまで考えが至った時、通路を曲がった先から、何やら言い争っている3人の人影が姿を見せた。

 俺より少し年上、高校生か大学生か。にしても軽装だな。武器は持ってるみたいだが防具が弱い。スライム相手じゃないんだから、いや、普通のステータスならゴブリンくらいならこれでいいのかもしれないな。


「おい!どうなってんだよこれ!」


「俺が聞きてえよ!」


「あ!?お前らがゴブリンしか出ねえって言ったんだろうが!」


「とにかく逃げるぞ!」


 当たり、だな。通路の脇に佇む俺に目もくれず走り去っていった彼らから視線を外し、通路の奥に目を向ける。

 どうやら彼らは仲間なのか分からないが、を使って脱出したらしい。


 何にせよこれはチャンスだな。息を殺して通路の奥を覗くと、そこには抱き合って震えている2人の女子と、1匹の赤い帽子をかぶったゴブリンがいた。


 やっぱりレッドキャップじゃん!俺の心は歓喜に震えた。レッドキャップは見た目的には赤い帽子を被っただけのただのゴブリンだが、実態は全然違う。レッドキャップのステータスは通常ゴブリンの10倍以上。百万に一つだか千万に一つで出現するレアモンスター。


 とか言ってる場合じゃない。急がないと囮も死にそうだし、それに俺以外の誰かに取られてたまるか。

 一応の礼儀として声はかけよう。


「眼ぇ、閉じろ!」


 そう言ってフラッシュバンを投げつける。

 目を閉じていても視界が白く染まるのが分かる。結構高かったんだよな、これ。


 そんなことを考えながらレッドキャップを切り付ける。レベル4まで上がったおかげでそこそこ深めの傷をつけれた。


「あのー!コイツもらっていいですか?」


 一応ちゃんと聞いとかないとな。選択肢なんてないと思うが。


「あ、はい!!!ありがとうございます!!」


 よーし!言質とったぞ。これで殺していいな。レッドキャップは視界不良から復帰したらしく、こちらを殺意のこもった目で睨みつけている。


 さて、死んでもらいましょうか。

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