第8話 開けなさい

 目が覚めると、目の前には柵があった。


「うわ……」


 一瞬、また檻の中なのかと思ったが、そうではない様子。柵は、金色に塗装された大きな庭門だった。

 奥にはその庭門に似合った庭がある。広大な左右対称の植栽には模様が刻まれているけれど、広大すぎてどんな模様かわからない。

 正面には均整に敷き詰められた石畳があって、その先にでっかいお屋敷がある。どっしりと佇む黄色レンガの建物だ。


「あれ、どこ……」


 隣で、私よりも先にエステルが起き上がる。


「うっ」


 そして軽く嘔吐えずく。

 酔いやすいタイプみたいだ。かわいそう。


「大丈夫?」

「うん、大丈夫……大丈夫」


 大丈夫じゃなさそう。


「ようこそいらっしゃいました」


 爽やかな挨拶が、庭門の方から聞こえてきた。

 振り返ると、いつのまにか門の向こうに執事が立っていた。

 とりあえず立ち上がって挨拶をしてはみたが、この状況はなんだろう。周囲に人はいないから、間違いなく私たちのことだ。

 ようこそ、ですか。庭門の外でへばっているだけの、どちらかといえば怪しいはずの私たちに。


「主から話は伺っておりますよ。レア様に、エステル様でございますね。なんでも、カイン様のご厚意で釈放された、元囚人の方々だとか」


 執事は門の向こうでそう言った。

 エステルは真っ青な顔で口元を抑えながら、わずかに首をかしげる。

 なんだか話が曲げられている気がするが、まあ事実を話すわけにもいかないだろうし気にしない。


「はい、そうです、多分」

「そんな、どうかご遠慮なさらずに。ご安心ください、この屋敷の人間はみな温かいですから、すぐに慣れてしまいますよ」


 なんだか急に胡散臭くなってきた気がするが、気のせいだろうか。

 ところで、いつ門を開けてくれるのだろう。一応見ればすぐわかるくらいの怪我を負っているはずなのだが。


「おっと、申し遅れました。わたくしはアーサーと申します。以後お見知りおきを」


 執事は門の向こう側で腰を折った。エステルもつられて頭を下げたが、その揺れに反応してまた嘔吐えずいている。

 それにしても男前だ。声も顔も爽やか。細身の長身にはパッキリとした執事服がよく似合っていて、ブラウンとほんの一部の白い髪が優しさを演出している。


「あの、私たちはどうしたら」私はたずねた。

「はい、きょう一日、お二人にはまずゆっくり休んでいただき、お仕事は明日から開始といたします」


 そういう質問ではなく、どこからお邪魔すればいいですか、という質問だったのだが、ここで気になるワードが出てきた。


「仕事?」


 タダで生活ができるわけがないのはわかっていたが、六界主の役目で十分だと思っていた。


「おや、伺っていませんか? お二人には使用人のお仕事をしていただきます」


 まったく伺っていない。

 いや、この際別にそれはいい。ただ、そろそろ門を開けてほしい。もしかして迎え入れる気がないのだろうか、この執事は。

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