第2話 職場での日常
「本部長、これお願いします」
「あ、うん。分かった」
俺は部下から書類を受け取り、それをデスクの上にポンと置く。
何だか今日は仕事が捗らねえな……。
『アタシが明日、10分間だけ彼女になったげる!』
俺は昨日の虹乃の言葉を思い出す。
これも全部アイツのせいだ……!
「ねえ、今日の本部長、何だか少し上の空じゃない?」
「ね。いつもは目つきが悪いくらいに仕事に熱中してるのに」
部下達からの小さい声が俺の耳にまで飛んできて、余計に集中できん!
どうにかせねばなるまい……。
俺が少しイライラし始めて足を振るわせ始めると、後ろからニュッと誰かの手が伸びてきた。
その手にはマグカップが握られており、俺のデスクにコトっと置かれる。
「本部長、お疲れ様です」
そのほんわかとした声に俺はビクッと肩を振るわせる。
俺は驚きながらもお礼を言うべく後ろを振り向いた。
「ありがとう、
長めのピンク髪が特徴的で、身長はとても低く150cmも無いだろう。
髪は染めているように見えるが、何と地毛なのだそう。
この髪のせいで今まで苦労して、就職にも苦労したらしいが、最後の頼みでここを受けて採用された。
というのも、採用したのは他でもない俺だ。
髪が特徴的なだけで、とても良い子だし、能力もかなり高い。
なぜ他の会社は採用しなかったのか不思議なくらいだ。
俺がお礼を言うと「いえいえ」と頭をブンブン横に振る。
「行き場のない私を採用してくださったのは本部長なんですから、その恩はこの程度では到底返せませんよ!」
「ははは……。なら、会社にもっと貢献してもらわないとね?聞いたよ?この前のプレゼン、成功したんだって?」
「はうぅ……!お陰様で……!」
俺が褒めると、梨音は顔を赤くして俯く。
うん、もう少し自己肯定感を持った方が良いかもな!
「あ、そういえば、何でさっきからボーッとしてるんですか?」
梨音が俯かせた顔をあげて、控えめに聞いてきた。
「え?ああ、別に大したことじゃないよ。それより仕事しよっか」
「あ、はい!夜代本部長のために身を粉にして働きます!」
「適度に休憩は取ろうね?」
「はい!」
すごい……。梨音が文字通り燃えている……!
このやる気が空回りしなければ良いんだけど……。
俺が苦笑を浮かべていると、突如コンコンとオフィスの扉が叩かれる。
「夜代〜、居る〜?」
来たのは虹乃。
彼女が来た途端、オフィスの俺を除いた男性陣が盛り上がり始めた。
「おおお!水澤さんだ!」
「今日も綺麗……」
「すううぅぅぅっ!ああ、ここまで良い香りがする……っ!」
「俺、夜代本部長のところに来て良かったわ」
相変わらず人気だなぁと感心しつつ、女性陣の方を見ると、男性陣に向かって物凄い冷ややかな目で見ていた。
「水澤さんをその曇った目で直視するなんて……」
「気持ち悪い……」
「死刑ね……。遺言も言わせず逝かせてあげる」
相変わらず怖い……。
俺はデスクから立ち上がり、虹乃の方へと向かった。
「おう、居るぞ。何か用か?」
「ああ、これのここなんだけどね……」
虹乃が資料を俺に見せてくる。
「ここの予算と計画だけ、少し間違ってるんだ」
「うわ、マジじゃん。やっちまったわ〜」
「まだ直せるから問題無いよ。ただ、直接入力し直して欲しいからうちの部にちょっとだけ来てくれないかな?」
「分かった。ただちょっと待ってくれ。須藤さん!」
「はい、何でしょうか?」
大声で梨音の名前を呼ぶと、俺の背後に突然現れる。
「うおおおお!ビックリした!忍者か、お前は!」
「それほどでも……」
「褒めたつもりは無いんだが……」
少し呆れていると、虹乃がポンポンと俺の肩を叩く。
「夜代、この人は?」
「ん?ああ、この人は須藤梨音さん。ほら、前話しためっちゃいい子」
「ああ、その子かー!」
虹乃はニコニコしながら梨音に近づく。
「いやー、ウチの幼馴染がいつもお世話になってるね〜。あ、アタシは水澤虹乃ね。ねえ、何かコイツに不満とかある?パワハラとかされてない?何かあったら私に言ってね?」
「え?えと……ありがとう、ございます……?」
フレンドリーに接してくる虹乃に梨音は戸惑いながら俺に視線を向ける。
そういえばまだ用件を言ってなかったな。
「須藤さん、俺は少しここを離れるから、ここを任せていいかな?」
「は、はい。分かりました」
「よし、虹乃。行くぞ」
「ええ!?まだライン交換してないのにー!」
「知らねえよ。行くぞ」
俺は虹乃の首根っこを掴んで、そのまま無理やり連れていった。
「ああ!須藤さーん!後でライン交換しようねー!」
虹乃の声は響いて、フロア全てのオフィスに聞こえているだろう。
コイツ、後で絶対しばく!
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