第16話 帝国軍

 帝国軍は莫大な損害に構わず全戦線で力押しで国防軍を攻めている。攻撃の度に大隊丸ごとすり潰されるような損害を出しているが構わず正面から突撃する。


 これは司令官が云々より帝国軍の教義に基づくものであった。


 帝国軍は巨大で、ゆえに広正面戦略のような数にたのむ作戦を展開する。


 全戦線にわたり消耗戦を仕掛け、敵が予備兵力まで使い果たすまで追い詰め、最後には瓦解させる。


 自分達の数の優位で敵を擦り潰す。例え敵兵1人を殺すのに帝国兵3人が死んだとして、先に敵が死に絶えればそれで良いのだ。


 絶え間無い攻撃を敵に繰り出す事こそ帝国軍において最重要の教義であり、だからこそ帝国軍は数を活かすことに長けていた。


 後方、例えば工場から最前線まで盤石な補給線を築き兵士から物資までありとあらゆる物を不足なく届ける。


 帝国軍一番の得意技は補給のマネジメントだった。無謀に近い攻撃でも平然と行うのはこうした、盤石な補給を受けられるからだ。


 また数に恃まざるをえない事情もあった。膨大な兵員を揃えるということはそれだけ教育リソースも、また兵器も必要という事。


 兵器はともかく、教育については帝国軍の弱点だった。物量を軸にする以上まずは数を揃えなければならない。


 特に戦時に於いては教育すべき兵の数も莫大になる。結果として、軍隊において手足となる兵卒は周到な訓練は望めず、概して低練度だった。


 兵隊としては未熟な帝国兵だが、1つ大きな強みがあった。


 それは精神力。全体主義が帝国を覆ってから40年は経ち、軍務に最適の若者は祖国と総統への忠義に満ちていた。


 祖国へ、総統へ殉じることこそ最上の名誉と心得る。だからこそ無茶無謀、戦死必定の突撃にも嬉々として従う。絶望的な防衛戦でも降伏は決してせず、弾が尽きればナイフや銃剣、円匙えんぴ等近接武器で戦う。


 戦死を恐れぬ屈強な精神を備えた兵隊が猪突猛進し、それが延々と続く。これが帝国軍の真髄だった。

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