第14話 空挺降下
国防軍と帝国軍砲兵がその死力を尽くして激戦を展開している中、黎明を期して帝国軍は空挺作戦を発動した。
白み始めたヴェーストル森林地帯の空を帝国軍双発輸送機が発する轟音が覆う。
編隊は一路、平原があるナクト地区を目指していた。
ナクト地区では第125
敵降下猟兵降下の報に接した同連隊司令部は敵の狙いを正しく読み取った。
ナクト地区には幹線道路が走っている。森林が陸続とするヴェーストルでは幹線道路とは
「現在第5中隊及び7中隊が戦闘中。敵降下猟兵、推定で二個大隊」
参謀からの報告に連隊長は頷きを返すと矢継ぎ早に
「4中隊と6中隊も向かわせろ。戦車は?」
「第8中隊が出撃準備完了の報告を寄越しています」
「差し向けろ」
上級司令部に命令を仰ぐ前に自己の裁量権の範疇のものは素早く決断し実行する。
国防軍将校はそれが出来るだけの教育を受けていた。国防軍の教育課程では尉官には佐官の、佐官には将官の知識を詰め込む。つまり少尉の小隊長は少佐の大隊長レベルの知見を有する。
そのため、例え司令部から命令が無くとも、通信が断絶しても上級部隊の考えることを察し自主的に行動することができた。
さらに素早い決断を可能にする教育プログラム。一例を挙げれば、国防軍士官学校では1つの戦術的課題に対して他国のように1時間かけて完璧な答えを求めない。そうではなく2分間で解を求める。そうして即断即決の才を培う。
こうした教育の結果として国防軍将校は非常に高い戦術的な能力を有していた。
この空挺降下に際してもその能力は一切の遺憾無く発揮された。
空挺降下が行われた時点で現地にいた5中隊中隊長は直ちに出撃を命じた。この素早い判断の背景には同中隊長が予め空挺降下の危険性を警告されていたことも影響している。何せ深い森林の中に存在する限られた平原なのだから。
中隊全員が装甲車に搭乗し敵降下猟兵の降着地へ急行した。空挺部隊というのは降下直後が最も脆弱である。
地上200メートルから時速およそ200kmの輸送機から降下。当然の帰結として兵員は広範囲に散らばる。
降下後はまず軍隊の最小単位である分隊から小隊、中隊と集合しなければならない。
5中隊長はそれを承知していたからこそ、迅速なる降着地へ突撃こそ肝要と考えていた。敵兵力は推定二個大隊とのことだが、降下直後であれば先述の理由から十全にその戦闘力を発揮できないのは明らか。
それに敵降下猟兵撃滅が叶わないとしても最低限平原から追い出したかった。敵が平原を占領している限りそこが
『5中隊は突撃を発起しナクト平原の敵降下猟兵を撃滅せんとす』
報告電を飛ばすと81mm及び120mm迫撃砲で短時間の猛射を加えた後に攻撃前進に移った。
この時、帝国軍空挺大隊はようやく中隊規模での集結を完了し、一部小隊や分隊を警戒に配置したところだった。
そこへ迫撃砲の猛射を浴びた。集結のため大勢が密集していたこと、タコツボといった簡易な防御陣地は構築していなかったことが原因で大損害を負った。
そこへ装甲車が突撃してきた。一方的な戦闘だった。
まず装甲車に抵抗することすら著しく困難だった。空挺部隊は装備優良で士気旺盛であるものの、本質的には軽歩兵にすぎない。故に装備に対戦車火器を含まない。対戦車砲は落下傘で投下できない。グライダーなら運べたがナクトには着陸するだけの空間がなかった。
12.7mm機銃が最大火力であり、これなら装甲車の装甲を貫通できなくはない。
ただし、まだ回収できていない、展開途中、迫撃砲でやられた、射撃を開始したものの即座に反撃で沈黙させられた、と散々だった。
空挺大隊にとって悪いことは続く。5中隊が攻撃を始めた直後、別方向から7中隊も攻撃を開始、結果として十字砲火を浴びる形になった。
空挺大隊の兵士は精鋭の名に一切恥じぬ、鬼神の如き戦いぶりを見せた。満足に身を隠す遮蔽物のない草原で、身を伏せ銃撃し、装甲車に対しては手榴弾や梱包爆薬で捨て身の攻撃を実行した。
奮戦虚しく、如何に優れた技量、不撓不屈の精神力を有するとは言え物理には敵わなかった。小火器の銃弾が装甲を
最終的に5中隊及び7中隊は来援到着までにナクトの平原から空挺大隊を駆逐した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます