第4話 特別偵察
「これは……」
国防軍最高司令部から上られた極秘作戦に総理は唸っていた。
内容は特殊部隊を用いた帝国領土内での偵察。陸軍は特殊部隊を帝国領土内に送り込み、空軍は航空機で帝国領土奥深くまで偵察する。
まず陸軍は特殊部隊の中から選抜された要因100名程度を投入する。これらの人員は所属を明らかにしないため市販の服を着用し、自決用の拳銃と手榴弾、書類等証拠隠滅用の火炎瓶を所持する。以上の状態で国境付近の帝国軍戦力を捜索、索敵しその戦力の程を
空軍は国籍を表すラウンデルを機体から消し、長躯帝国領空を駆け各地の飛行場、基地を偵察する。
どちらの作戦も明確に帝国の主権を侵害する行為に他ならない。だからこそ国籍及び所属を示すものを一切を削除する。
作戦に参加する兵は捕虜になれないことは承知で、万が一追い詰められた際は自決するよう言い渡されている。
そうした機密保全措置は取られているものの、万が一露見した際には帝国に絶好の開戦の口実を与えることになる。
将軍達はそうしたリスクを承知の上で作戦の実施許可を求めた。
最近国境付近に展開中の帝国軍は偽装で自らを隠匿しようと努めており、こうして作戦を行わねば実数の把握は非常に困難である。そしてそれは国防軍の作戦立案を著しく困難にする。
「是非も無し、か。宜しい。許可しよう」
最早事態は予断を許さず、帝国軍は能力的には皇国侵攻を行えると判断された。そうである以上
軍事的な対応が必要になるは必定。
外交によってのみ平和を希求する段階は過ぎ去った。
そしてやや逆説的ではあるが、この決断によって皇国政府は対帝国戦を辞さず、との決心を固めた。
×××××
連邦の南部、帝国との国境に程近い空軍基地に一機の双発機が降り立った。
基地要員はその機体を奇怪な目で見る。確かに連邦空軍の所属であることを表す赤い星のラウンデルが描かれている。迷彩柄も同様。
しかし誰もがこの機体を見たことが無い。試作機かもとは誰かが呟いたが、それでも雰囲気からして連邦の機体とは思えない。
連邦の設計局が連綿と開発してきた航空機の系譜からあまりにもかけ離れた設計をしている。一番目を惹くのがコックピットの形状で、機体から膨張するようにガラス張りになっている。なるほど広い視界が得られるだろう。他にも胴体が異様に細い。
訝しむ者が多いけど、中にはああなるほど、と合点がいく者もいた。数日前からこの基地には不釣り合いな程の高官数名の来訪を得ているし、所属不明のエンジニアも特別待遇で来ている。
元よりこの基地は、基地というより予備滑走路と呼称する方が適しているというのが衆目の一致するところ。
帝国への備えから旧式の戦闘機が10機いかない数駐機しているにすぎない。
なるほど彼らはこの航空機のために来ていたのかと納得できた。しかし兵卒の誰しもがは目的まではまるで検討もつかなかった。
「来たなあ……」
その注目の的になっている機体から滑走路に降りたルフト中尉は周囲に広がる景色を見てそう呟いた。
国防空軍第600航空実験団所属。実験団と称してはいるがその実は今回のような秘密裏の任務に対応するための特殊部隊である。
今回はこの爆撃機を偵察用に改造した機体で任務に当たる。他に副機長、航法手、飛行技師、銃手三名。全員連邦軍の制服を着用。
この任務は連邦軍協力の元で行われる。
元々国防軍は帝国の侵攻後、連邦軍に各種支援を実施していたため繋がりがあった。その繋がりが活かされた形になる。
基地使用の対価として国防軍は連邦軍に各種物資を追加で譲渡。爆撃機の燃料等は国防軍負担。偵察結果は連邦軍にも提供される。
連邦としては皇国と帝国が戦争状態に突入するのは喜ばしいことであった。皇国にも戦力を投入するとなれば連邦に差し向けられる戦力も減ることが期待される。
だから連邦は協力を惜しまない。もっとも皇国を戦争へ誘うものであれば、だが。
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