第3話 OSINT

 連合皇国国防軍諜報機関第一課。ここは相手国内部に協力者を得てそこから情報を獲得する、一般人がイメージするスパイそのままのことやっている。


 この課も帝国との関係がきな臭くなりつつあることを受け、精力の大半を帝国へ傾けていた。


 およそ2ヶ月前、帝国軍が国境付近に軍を展開させるとの情報を最初に掴んだのはこの課だ。その情報から半月後、実際に帝国軍が国境から10kmの位置に展開した。


 公式発表によれば演習。そんな仮想敵国との国境間近で行われる演習など聞いたことがないし、本当に演習だとしても相手国を刺激せずにはいられない行為。というかそんな位置に帝国軍は施設を所有していない。


 皇国ではこれを要求を呑ませるためのブラフ、脅しの一つだと受け取っていた。


 しかし事態はいよいよ深刻さを増す。帝国軍は増強され、戦車一個師団までもが現れた。しかもこの師団の人事記録を漁った結果、指揮官級は軍歴の長いベテランか対連邦戦に従事したことのある者だと判明した。手足となる兵こそ新兵がおおいが、戦力を考えれば連邦戦へ即座に投入されてもなんらおかしくない。


 脅しにしては分かりにくい、というか諜報の結果明らかになったことなのでブラフではなさそう、というのが正直なところ。


 追い討ちをかけるように皇国と国境を接する帝国軍南部軍管区の動きが活発になりつつある。人事移動が多く行われ、そのいずれもが実戦を意識したものだ。同時に隷下の諸部隊に移動の準備が令されたという。


 戦車や装甲車の整備作業も始まったようだ。諸々の部品が日夜基地に運び入れられ、一部は民間の自動車工場から工員を雇い入れている模様。


 戦車を戦場まで運ぶ戦車運搬車が続々とその姿を見せている。内容物は不明ながら連日多くのトラックが基地に物資を搬入している。


 雪が降り始め年が変わろうとする頃、事態がより深刻な状況になったことを確信させる一報が舞い込んだ。


 鉄道工兵一個連隊が完全装備の状態で進出、さらに道を構築する建設工兵も同様に進出が確認された。


 恐ろしいことに補給を始めとした後方段列が増強されつつある。展開している師団自前のものではなく師団の上、軍団から輜重部隊が増派された。


 何より背筋を凍らせるのは戦死者に対応するための部隊まで控えていることである。書類対応に留まらず、棺まで確認されたのだからいよいよ実戦に即したものになっている。


 

×××××



 こうした報告をまとめ、帝国軍は皇国侵攻を行うだけの最低限の能力を有する。とする結論が導き出された。


 この報告を受け国防軍の頭脳である国防軍最高司令部では極秘作戦の立案が始まった。

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