第17話お守り販売②

男について行ってたどり着いたのはお手伝いさんもいる豪華な家だ。


そんな家庭でも払えないほどの高額な値段をふっかけられたのかと、ますます哀れむ。


『妻は…こっちです。』


そう言われ案内された先には息も絶え絶えに寝込むやつれた女の人。


元は美人なのだろうが、その顔の半分には気持ち悪い顔をした痣がゲッゲッゲッと不気味に笑っていた。


「大丈夫、まだ間に合います。」


「ほんまか!?なら早う退治せんと!」


「はい。では清麻呂様、出て行って下さい。あ、旦那さんはいてもいいですが気絶しないで下さいね。」


グイグイと清麻呂の背中を押し部屋から追い出そうとする椿。


その行動に不満だというのを全面に出し清麻呂が抗議した。


「なんでや、旦那さんいてもええなら僕かて」


「彼女の服を脱がせます。出てってください。」


「それを先に言いや。」


んあっ。と驚いた顔の清麻呂はさっさと部屋を出ていく。が、男にも手招きをし出した。


『え?俺ですか?』


「せや。出とくで。」


『で、でも俺はいいって…』


「あほ。椿が気を失うなって言う事はとんでもなくエグいもんが出るで。そんなん失神してまうわ。」


『そうなんですか?』


「まぁ…一般人が見て倒れなかったのは見た事ありませんね。どうします?」


今度は男があがぁ。と驚きの顔をした。それならなぜ出ていけと言わなかったのか。


清麻呂の後を追ってさっさと部屋を出た。


「10分もすれば祓えます。一応お守りは持っていて下さいね?厄除けですので。」


「了解や。終わったら声かけるんやで」


「はい。」


パタン。と静かに閉められた扉。


腕を組みふぅと小さなため息をこぼすのは清麻呂だ。


そしてチラリと男を見れば、唇を噛み締めてジッと妻のいる部屋を無言で見つめている。


「すまんな、椿は言葉足らずなんや。ほんまはええ子やで?」


『え?』


「さっきのな。多分やけど”とても辛い場面があるので”気絶しないで下さいね。”無理そうなら出た方がいいです”って事やと思う。」


『そ、それは足らなすぎですね。』


「やろ?でもほんま、ええ子やねん。」


そう言ってクスリと小さく笑い同じく扉を見つめる。


そんな清麻呂を見て次は男がほっこりと笑いながら語りかけた。


『お好きなんですか?彼女の事。』


「は?」


『とてもお優しい目をしてらっしゃる。お似合いですよ、お2人とも。』


「な、ちゃうちゃう。椿は相棒や。優秀でいつも助けられてん。」


『ははは!いやはや。なんだか安心しました…』


そう笑う男の目には涙が。


ギョッとして何がと聞く清麻呂に謎にうんうんと頷く。


そうしてニコリと笑い、清麻呂に向かった。


「なんや?」


『お2人ほどの強い絆の持ち主でしたら、きっと妻を助けてくれる。』


「は?」


『だってどちらかが苦しむ事はしないでしょう?ならばきっと、中にいる彼女は全身全霊で妻を助けてくれるはずだ。』


「…随分と打算的やな。」


『信じてるだけですよ。そろそろ時間ですね?どうでしょうか。』


ちょっと照れたような顔の清麻呂と時計を見る男。そろそろ椿が言っていた10分だ。


結果はどうだったろうかとドキドキとうるさい左胸に手をおきながら、出てくるのを待った。


ーカチャ…。


「なんです?そんなに身構えて。」


「嫁さんどうやった?」


「寝てます。今は体力が落ちているので後は医者へ。」


『なんと…っ!!ありがとうございますっ、どうお礼を申し上げればよいか!!』


出てきた椿の言葉に、腰を90度曲げて深い礼をする男。


大粒の涙を流し、嗚咽をあげる様子に清麻呂はホッと安心して微笑んだ。


「お礼…では、お守りを売るために口添えをお願いします。」


「お、それええな。そんなら今回の件、料金いらんし。」


『い、いえそれでは私の気持ちが納まりません。そもそもなぜお守りの販売など…それほどの力ならばその道で稼げばよいのでは?』


「際限なく出来るものではありません。多くの人達に手を差し伸べられるのは微力ながらこれが1番。」


「集めた金は貧困層の支援金にするんや。なかなか売れんくて困っとってん。ええやろ?」


な?とポンと肩に手を置く清麻呂のニンマリ笑顔に、男は顔をキョトンとさせ吹き出した。


『では私からも支援しましょう!』


「え!?ええの!?」


『はい!桃木が提示してきた額より遥かに安い。私が先導すれば他の富裕層も協力するでしょう。』


清麻呂と同じくらいニンマリ笑った男には出会った時の頼りなさは微塵も感じられなかった。


有難い申し出に清麻呂もニコニコだ。


「よかったですね。とりあえず帰りましょう、疲れました。」


「せやな。病院も行くで」


『そうだ肩!申し訳ありません、すぐに医者を』


「ええってええって。僕が連れてくから。ほんなら後で支援金の話ししましょか。一旦さよならで。行くで椿」


「はい、清麻呂様。」


そう残して立ち去る2人。この日からお守りは爆売れしだしたのだった。




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