第16話お守り販売①

椿にお守りを作ってもらってから売り出して数日。


『お、君らでしょ?今有名な物好きエリートと物好き巫女のコンビ。それお守り?1つ貰おうかな。』


「おおきに。1つ400円やで」


『金取るの?無償でお悩み解決してるって聞いたけど。』


「この金は支援金や。貧しい街人のために使わしてもらいます。」


『えー、じゃぁいらない。変人から買ってもいい事なさそうだし。』


「イラ。」


こんな感じで断られる日々。


時々それでも買ってくれる者はいるが鼻で笑いその場で捨てて行くのだ。


そんな人々に清麻呂は眉をヒクつかせている。


「清麻呂様、お顔が怖いですよ。」


「腹立つやん。これ作るんにどれだけ椿が苦労かけてると思っとんねん。」


「こればかりは仕方ありません。地道にいきましょう。」


舌打ちする清麻呂にサラリと返す椿。


そんな椿を見て腹は立たないのかと大きな鼻息をもらした。


「なんで怒らんのや。1番怒ってええ立場やろ。」


「清麻呂様。」


「?」


「お守りといえども私が念を込めた品々。買わなかった者は大丈夫でしょうが買ってその場で捨てた者は後悔する事でしょう。」


「…聞かん方がよかったな。」


真っ直ぐ前だけを見つめいつも以上に顔を動かさない椿に、本当はすごい怒っているんだと身震いをする。


そしてお守りを捨てた者はどうなるのか…。


想像するだけで恐ろしい。


『たたた助けてくれ!!』


「うわ、なんや?」


『あんたらだろ!?最近有名な物好きコンビ!!それお守りか!?効果あるのか!?』


そんな2人の後ろから、突然ドシン!!と体当たりするように清麻呂に抱きついてきたのは全く知らない男だ。


どうやら切羽詰まった様子にただ事ではないのだろうとよぎるのだが焦りすぎているこの男からは事情が読み取れない。


清麻呂ははぁ?と怪訝な表情をしてしまった。


「落ち着いて下さい。1度清麻呂様から離れましょう。」


『あんた巫女なんだよな!?な!?』


ーガッ!!


「いつっ!」


「ちょぉ!何しよんのや!!離しぃ!」


あまりにも慌てる男に声をかける椿だが、勢いよく両肩を掴まれてしまった。その力はギリギリと強く、まるで肩を潰そうとしているかのような握力に顔を顰め声がもれる。


そんな2人を引き剥がし、間に割って入って椿を背中に隠した清麻呂はキッと鋭い目で男を睨んだ。


『巫女なんだろ!?助けてくれよ!!』


「だから!!落ち着いて事情を話しぃや!!無抵抗の女にあないな力で掴みかかったら怪我するやろ!?」


『うっ、す、すまない』


「ったく。大丈夫かいな椿」


「な、なんとか。」


そう言うものの、両肩を押さえカタカタと震える椿にこれまでにない怒りを覚える。


そんな様子を察したのかアワアワと慌てながら必死に頭を地面にこすりつけ謝ってきた。


『本当にすまない!!妻がおかしくなってしまって!!』


「おかしく?なんやそれ」


『分からないんだ!!この前2人で出かけた時はなんともなかった。だがそれ以降変な痣が浮かびでてきて…っ!』


「痣?そんなん医者に行きぃや。」


ブルブルと土下座をして涙を流す男を集まった民衆が見つめる。


妖怪や幽霊ならばなんとかなるだろうが、痣となれば専門外だ。


清麻呂ははぁー。と呆れながら男に言った。


『医者じゃダメなんだ!!その痣、人の顔して笑ってやがる!!』


「ピク。人の顔の痣、ですか?」


「なんや、心当たりあるんか?」


「はい。低級な厄を運ぶ妖怪です。」


”人の顔の痣”


その言葉に椿は引っかかり清麻呂の後ろから声をかける。


男は藁にもすがるような眼差しで椿へもう一度深々と頭を下げた。


『頼んます!!妻が、、苦しんでいるんだ!!なのに”桃木”の陰陽師は高額な値段をふっかけてきて最早頼れるのは貴方々しか…』


「桃木に頼んだんか?」


『はい…しかしやつらは妻に憑いているのはとても手強い悪鬼だと…払えもしない高額な値段で退治すると!!』


「悪鬼…?まさか。聞く限りでは人面瘡です。そこまで手こずるはずはありません。」


「人面瘡?なんやそれ」


「人の傷に取り憑く妖怪です。取り憑かれた者はその傷口が人の顔のようになり、やがては意志を持ち始めます。そして放置すると…」


「放置すると?」


ゴクリ。


皆がシンと静まり椿の言葉を待つ。


ふぅ。と一呼吸置いてから続きを言った。


「生きたまま体は腐り、死にます。そして死後も人面瘡によってあの世に上がる事はできず永遠に彷徨う。その者もまた人面瘡になるでしょう。」


『なん…だって?』


ザワッと揺れる人々とこの世の終わりかのような表情の男。


清麻呂はグッと眉間に皺を寄せて聞いた。


「まだ、間に合うんか?」


「笑いだしたと言っておりますので見てみない事にはなんとも…。案内して頂けますか?」


『あ…あぁ…』


フラフラと立ち上がり絶望した顔で歩き出す男を哀れむ。


清麻呂と椿はそっと後を追った。

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