第15話椿の行動②
翌日。
現在朝の6:00だ。
「もう起きるんかいな。」
椿が何時から外に出ているのか分からなかった清麻呂は、朝方5:00頃から離れを見張っていた。
その結果、6:00には部屋の明かりが点き人影が動いているのだ。
まさかいつもこんな早朝から行動しているのか?と驚きを隠せない。
清麻呂も急いで身支度を済ませ恐る恐る外を見れば、ちょうど椿が大きな荷物を持って離れを出て外へ向かうところだった。
「一体どこへ行くんやろ。」
大荷物なその後ろ姿に首を傾げながら、スタスタと歩く椿の後ろを息を殺して追いかける。
暫くそうして歩いていれば広い公園にたどり着いた。
「なっ、ここは浮浪者の多い公園やん。なんだってこないなとこに1人で来てるんや!?」
まだまだ寒いこの季節ではこの時間薄暗いものだ。
防犯上よくないであろう事も椿は分かるはずなのになぜ、1人で荷物抱えて来ているのかと心配しながら見守る清麻呂。
その行動をジィっと観察していれば、公園には不釣り合いな大きい金庫から大量の食材を取り出したのだ。
「食材…?しかもテントまで張りよって。これは…炊き出し??」
コトコトと料理を続ける音がなる。
寒空の下、火にかけられた食材達からはモクモクと白い煙が上がり次第に胃が叫び出すようないい匂いが広がっていった。
ーグゥゥゥッ!!
「っと。こりゃええ匂いやわぁ…」
食べ物の匂いに誘われるように集まる浮浪者達。
きちんと整列し1人1つ受け取る食事を、手を擦り合わせ白い息を吐きながら椿が配っている。
一体いつからこの炊き出しをしていたのか。
配り終えて片付けも全て終わらせた椿が一礼をしてその場を離れるのを見届け、清麻呂は嬉しそうに笑いながら家へと帰って行った。
「手袋、買ってやらな。」
翌日早朝。
「はぁ…今朝も冷えますね…」
いつものように炊き出しに集まる浮浪者へご飯をよそっていた椿。
「そらこんな薄着なら寒いやろ。」
「清麻呂様?」
「手、貸してみ。」
はぁ…と吐く息で手を温めていれば横から温かい大きな手が包み込んだ。しっかり防寒を決めた清麻呂が、椿の手に手袋を握らせているのだ。
「いらしたんですね。」
「当たり前やん。なんでこの事言わんかったん、1人でやるなんて危ないやろ。」
「清麻呂様、朝弱いではないですか。まだ寒いですしこれは私が個人的にやりたいと思った事なので。」
「水くさいわぁ。相棒やろ?確かに起きるんは苦手やけど今度からは前もって言いや。」
「?私の個人的なやりたい事ですよ?」
もらった手袋をはめ、自分の両頬を包む椿が不思議そうな顔で清麻呂を見る。
その顔を清麻呂も不思議そうな顔で見つめ返した。
「ええやん、別に。椿かて僕のやりたい事に力貸してくれてるし。」
「…」
「なんのための相棒やねん。どうせこの食材費もお給金で出してる懐からやろ?頼られへんのは傷つくわぁ。」
「それは申し訳ありませんでした。…その。」
「ん?」
「明日からはご一緒して頂けると嬉しいです。」
寒さのせいか言い慣れないお願いの言葉のせいか、少しだけ頬を赤らめる椿にニンマリ笑う清麻呂。
すぐに目を逸らしパッと扇子を広げ一言。
「当たり前やで。」
その返答にふぅ。と呟く椿はわいわいと賑わう公園を真っ直ぐ見る。その優しい目付きに清麻呂は事の発端が気になったのだ。
「なんでコレをやろうと思ったんや?まぁ僕らの次の行動にも繋がってくる事やけど。」
「私、この先の泉で毎朝身を清めているのです。」
「え゙っ。極寒やん」
うわっ。と思わず引く。椿はかまわず続けた。
「清らかな冷たい水は邪を払うと信じられています。陰陽師時代からのルーティンです。」
「へぇ、そうなんや。それがなんでコレに繋がるん?」
「私が身を清めている時、持ってきていたおにぎりを貪り食う者がいました。あそこにいる浮浪者です。」
スっと指をさした先には椿の配った食事を満面の笑みで仲間と楽しそうに食べる男。
なるほど。と普段分かりにくい椿の優しさに手をポンと叩き、今度は嬉しそうにフッと笑ったのだ。
「…私も清麻呂様に助けられた身。」
「?」
「あの時の私とは違い必死に生にしがみつくその姿に、何かしたかった。」
「…ほんま、ええ子を相棒にしたわ。」
こちらをチラリとも見ない椿の頭に手を乗せ、清麻呂も美味しそうに食事をとる浮浪者達を見る。
少しして満足したのか、椿は片付けを始めせっせと動き出した。
「そう言えばよく僕が来たの分かったなぁ?」
「清麻呂様には式神をつけていると以前お話しました。昨日私をつけていたのも気づいています。」
「ほんまかいな。恐ろしいわ」
「昨日で満足して今日は寝てると思いました。まさか手袋まで頂けるとは…私はこの後泉へ行きます、清麻呂様はお帰りいただいて大丈夫ですよ。」
「なんでや?僕もいてええやろ?」
「かまいませんが…後で文句言わないで下さいね。」
どういう事かと首を傾けた清麻呂だが、ついて行った椿のお清めの後しばらくは文句が絶えなかったようだ。
「こんっっな寒いんならもっと念押してや!!ようこれであの泉入れるなぁっ」
「慣れです。明日からは来なくていいですよ。」
「行くて!!でももう少し防寒用具揃えるから今日は服屋や!!」
「はいはい。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます