第14話椿の行動①

これは今朝の出来事だった。


今日は一段と寒い日だ。いつもならもう少しで椿が起こしに来るはずなのだが、この日はなぜか来なかった。


「またどこ行きよったんや?」


以前、兄の元へ遣えるよう言われた時の朝を思い出して顔を顰める。


寒くて布団から出られない体をブルリと震わせて嫌々とはい出てきた。


「しゃーない…寝坊かもしれんし起こしたるか。」


ふぅと寝起きの顔のままいそいそと身支度を初めてお決まりの赤いアイシャドウを入れる。


冷えきった体はなんとも血色悪いがパチン!と両頬を叩いて部屋の襖を開けた。


ーガラリ


「さっっぶっっ!!!地球終わるんかこれっ」


ヒュゥと全身を一撫でする風に体が縮こまってしまう。


カチカチと歯を鳴らして椿がいるであろう離れの前まで来てみるが、シンとしていて起きてる気配がないのだ。


これは完全に寝てるな。と一息ついて扉を叩いた。


ードンドンドン!


「椿ー。なにしとるんや、はよ起きぃ」


シーン


「嘘やろ、そんな爆睡しとるんか?」


声かけになにも返ってこない目の前の離れに、まさか倒れているのか?と目を見開く。


そして入るか女中を呼ぶか悩んでウロウロと回り出しだせば怪しむ女の声が聞こえた。


「…。不審者ですか?」


「うわっ!ビックリした。なんや起きとったんかいな。どこか行っとったんか?」


「野暮用です。そういう清麻呂様こそいかがなさいました?」


後ろから聞こえた声に動きを止める清麻呂。振り向けばジトォとした目を向ける椿が目に入り、なんともなさそうだとホッとさせられたものだ。


「どうしたかもなにも、いつもの時間に来ぉへんかったから寝坊やと…」


「なるほど、それは失礼しました。さて、今日はどうするのです?」


「って、どこ行っとったんやて?」


「野暮用です。お悩み解決ですか?」


「こりゃ言わんな。せやなぁ、そろそろ他の事もせんと飽きられてまう。当たり前になっては意味もないしなぁ。」


椿を拾ってから現在まで、様々な悩みを解決してきた2人。


知名度は上がったものの、変化のない行動ばかりではやってもらうのが当たり前という状況を作りかねない。


それを防止するためにも他の事をしようと人差し指を顎に当て、コテン。と傾げていた。


「何か策が?」


「せやなぁ…街ではお守りブームみたいやん。椿、お守り作れるか?」


「効果の高いものではありませんが、一時の魔除け程度には。」


「よし。それを売ろう。」


「配るのではなく、ですか?」


「せや。その儲けた金で、貧しい者への支援金にするんや。ここまで僕らの知名度が上がれば実力認めて買うてくれるやろ?なら次は好感度。富裕層ターゲットに看板掲げて売ったるで。」


「なるほど。では私はお守り制作に入りましょう。」


「頼んだで。」


ニンマリ。嬉しそうに笑う清麻呂は扇子で口元を隠しながら鼻歌をもらす。


それから数日、椿は離れに篭もり御札の制作を続け、清麻呂は1人街に赴き、貧困層の実態把握のために様々な場所へ様子を見に行っていた。


1週間後ー。


「今日もかいな…」


お守り制作から暫く経ち、十分な準備はできた。


だが椿がこの1週間、起こしに来るのが遅いのだ。


何か厄介事かと様子を見ているが普段からあまり表情の変わらない椿から不安や感情の動きを感じられない。


本人に聞いてみても野暮用と言って終わらせられるてしまう始末。


「ふぅ…。まぁ椿やから大丈夫やと思うけど。つけてみるか?」


まだ声のかからない襖を見据えて悩む。


仕方ない。と明日は椿を尾行する事を決めたのだった。





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