第13話昨夜の真実
翌朝。
雀の鳴く声と日差しに呻き声をあげて目をゆっくりと開けた清麻呂はボーッとしながら天井を見ていた。
「椿…迎えに行かな…」
昨夜の事を思い出し少し身震いをしながら寝起きてダルい体を持ち上げる。
ふと横を見れば式神の小夏が大の字で寝ていた。
「えぇ寝っぷりやなぁ…護衛なはずなのに。」
これだけ見ていれば年相応の幼い女の子。
よしよしと頭を撫でて大きく伸びをすれば、最近ではめっきり聞くことのなくなった襖の叩かれる音が耳に届いた。
「清麻呂様。椿です。」
「なんや早いな。…もう、ええんか?」
「はい。ご無事なようでなによりです。」
「生きた心地せぇへんかったで。小夏と椿のお陰やな。」
ふーっとあのおぞましい影を思い出してはため息が出る。
そのままいつものようにガラリと襖を開ければギョッと目を見開いたのだ。
兄「やぁ、おはよう清麻呂。」
「兄上!?なんでこんな朝っぱらから…」
兄「君の巫女、返しにきたよ。賭けに負けちゃったからね。」
「賭け…?」
残念とは微塵も感じない素振りでケタケタ笑うのは清麻呂の兄だ。
不思議に思って椿に目をやれば、いつものレースをしておらずその顔は疲れたと言わんばかりに目の下にクッキリとクマを作っていた。
「私からお話しましょう。」
「どえらい顔やな。悪魔召喚失敗したみたいな顔してるで」
「恩人になんて事を…。清麻呂様の兄上様は今回の私達の計画、気づいていたようです。」
「は?」
なんとも素っ頓狂な顔と声で兄を見れば、ニンマリと清麻呂そっくりな悪ガキ顔負けの笑顔。
まったく兄弟だななんて呆れながら椿は昨夜の事を話し出した。
「昨夜、兄上様から提案を頂きました。”今夜清麻呂に刺客をやる。その魔の手から守りきる事ができれば清麻呂の元へ返してあげるよ”と。」
「な…なんでそないな事」
兄「だってさ、清麻呂がここまで興味を持つ子って珍しいじゃん?専属の陰陽師だって持とうとしなかったのにね。」
「それは…」
兄「なんでかなぁーって。俺は俺好みの陰陽師いるから椿ちゃんは必要ないし。かと言っておいそれと返すのはもったいない気がして。なら賭けてみようってさ。」
「はぁー…人が悪いで兄上様…」
清麻呂は今回の出来事、全て兄の興味本位だったと知りガックリと項垂れるのだった。
そんな中、兄はまたケタケタと笑い椿の肩を寄せてピースをしながら頬をくっつけていた。
兄「まぁさ。すっごい優秀だよねこの子。清麻呂を守れたら母上に頼んで父上に陳情してもらうって約束だったけど。こんなに出来のいい子なら俺も欲しいよ。」
「近いので離れて下さい。」
兄「清麻呂より年下かな?今はまだ幼い顔してるけど数年もすれば化けると思うんだよねぇ。」
スリスリと頬擦りをしては一人言のように喋り続ける兄。椿は眉間に皺を寄せて嫌悪感丸出しだ。
兄「俺の陰陽師と交換はどう?」
「さっき必要ないと言ったではないですか。」
兄「可愛いからさぁ。育てるのも悪くないかなーって。」
「ははは、なにを言います兄上。」
ーグン!!
顔をくっつけて離さない兄の顔をグイッと押しのけ、力ずくで椿を抱き寄せた清麻呂はすかさず背中に隠す。
そのままいつも以上に貼り付けたような笑顔で椿と兄の間に割り込み重っ苦しい雰囲気を纏った。
「椿は兄上には役足らずです。今の陰陽師でも充分優秀やないの?」
兄「んー。でもさぁ…その子”桃木家”の陰陽師並に優秀なんだもんなぁ。」
「ドキリ」
「あそこは当主が変わって以来落ちぶれてきてますやん。今はあれほどの優秀な人材はおらへんのとちゃいます?」
兄「あれほどの…ねぇ。ははは!たしかに!今では安倍家の方が優勢だしね!」
腕を組み、うんうんと頷く兄と緊張の面持ちの清麻呂。
椿は久々に聞く自分の本名と生家の事情に少し動揺した。
「そうですな。優秀な人材が欲しいなら父上に安倍家の陰陽師迎えるよう頼まれはったらどうやろ?兄上の言うことなら聞いてくれまっせ」
兄「そうかなぁ?まぁ今回は俺の負けって事で約束通りこの子は返すよ。そうだ清麻呂!1つお兄ちゃんから忠告だよ。」
「なんでしょう」
兄「何をやろうとしてるのか知らないけど慎重にね。」
「ーっ。」
兄「父上は気づかなくても気づく奴は気づく。俺みたいにね。自分の人生だ、どう生きるかなんて自由だけどヘタこかないでよね。じゃ。」
にっこり。
嫌味ったらしい笑顔を見せて驚いた清麻呂の隙をついて背中に隠されている椿の頬にキスを1つ落としていなくなる兄。
キョトンとする椿に、出遅れた清麻呂が怒りながら着物の裾で口つけられた頬を擦っていた。
「まったくあの女好きめ!!僕のや言うてんのに!!」
ゴシゴシゴシゴシ!!
「あいたたたた。あいたたたた。」
「ほんまに痛いんか!?もうちっと気持ちこめぇや!」
「八つ当たりですか?まったくもう。」
「うぐ」
「はぁ、ですが一件落着ですね。母上様に動いてもらえたのが大きい。時成様、あんな感じなのに奥様には逆らえないんですね。すんなり許可が出ました。」
「僕らの家でいっっちゃん怖いんは母上や。怒らしたらアカンで。」
「なんと。やはり母は強しですね。」
「強すぎなんやて。」
朝からとんでもない奴に絡まれたと疲れきる清麻呂の下で小夏が椿に手ぬぐいを渡す。
そして清麻呂と椿の手を引き
「話は終わりですよね。花屋のケーキ」
と催促したのだった。
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