第11話姑大作戦
時成から清麻呂の兄へ遣うよう命令されてから早1ヶ月。
「なんやぁ?これ。ちゃんと掃除できてへんやんか。」
「申し訳ございません。」
あの日、時成に呼ばれた清麻呂は事前に椿に伝えた作成通りに動いていた。
◇
時「よく来た。話の内容は大方お前の巫女から聞いているだろう。」
「おはようございます父上。えぇ、そらもう。引き取ってくれるって聞きましたで!ほんまにええんですか?」
時「…?あぁ。最近は民衆から人気を集めているようだな。一条家がそろそろ本格的に跡継ぎになる息子を決めなくてはならない。その事は知っているな?」
「もちろんです。僕は跡継ぎは兄上しかおらんと思ってましたが、そんな大事な時にあの巫女をつかせようなど…兄上に対しての試練とはいえ、思い切りましたなぁ。」
時「試練?よく分からんがどうやら巫女を兄に遣わせるのには賛成なようだな。ならばよい、明日にでもあの巫女は兄の専属だ。お前は他を探せ」
「もちろんです。でも代わりが見つかるまでは僕の方の世話も頼んでええですか?兄上様優先でかまわへんので。」
時「かまわんぞ。早く見つけるならな。」
「はい。ほな、僕は椿の持ち物全部返すさかい、失礼しますわ。」
◇
そんな会話をしたあの日から、清麻呂は椿への当たりを強くしているのだ。
名付けて悪姑大作戦。
椿が時成から興味を削がれるまで、悪い姑のようにネチネチと文句を言い、椿は少し抜けてる巫女を演じる。
それをなるべく時成の前で行うというもの。
「こーんな簡単な事もできんと、なんで巫女やれてるんや?まぁもう僕の巫女やないからかまわへんけど。」
「以後気をつけます」
「ええってええって。けど跡取りになる兄上様には迷惑かけんなや。それだけが気がかりやねん。」
使「…」
これはもちろん作成通りの発言だ。そうとは知らずに物陰からスッと姿を消す男がいる。おそらく時成の使用人だろう。
日中なかなか部屋から出てこない時成にこの作戦を見せることはできないが、長男教の時成は必ず椿を見張り出す。そう考えていた清麻呂はあえてその見張り役にこの姿を見せようと考えた。
その見張られるタイミングは昼夜問わずそれぞれだが、日中のタイミングは椿の出す蝶の式神から合図が送られているのだ。
「いなくなりましたよ、清麻呂」
「ほんまか?っはぁー…しんど。」
「見事な名演技で。」
「椿もな。もうそろそろ兄上のとこに戻り、怪しまれるで。」
「はい。あ、最後に1つ。明日の朝になるまで以前私が渡しましたその扇子、肌身離さぬようお願いしますね。」
「なんや不吉やな。なんかあるんか?」
見張りの男がいなくなってすぐ、肩の力を抜く清麻呂に椿は白い手を伸ばし以前渡した扇子を指さす。
あまりに真っ直ぐ見つめてくるその視線に、清麻呂は少しだけ身構えた。
「星が動きました。今夜何かあるかと。」
「えぇ…。何かってなんやねん。」
「それは私にも分かりません。ただ今夜を乗り切ればいい方向に物事が進むはずです。」
「ほんまか?この嫌味ったらしい生活もやっと終わるんか。」
「えぇ、おそらく。」
その返事に気の抜けたような顔をする清麻呂だが、すぐに気持ちを引き締めて背筋を伸ばしニンマリと笑う。
その悪ガキのような顔に今度は何を思いついたのかと白い目を向ける椿だが、構うことなくクツクツと笑い飛ばされてしまった。
「そんな身構えんでも。終わったら何か美味いもんでも食べに行こか。」
「なんですか急に。気持ち悪い。」
「なんや気ぃ利かせて誘ってんに!こんな嫌味ったらしい生活が続いたんや、ご褒美あってもええやろ。」
「なるほどそういう事ですか。では花屋の高級ケーキにしましょう。」
「遠慮ないわぁ…」
「清麻呂様の財布からですし。では私はこれで。扇子、忘れないで下さいね。」
「花屋のケーキって…1ピース1000円からやで。何個食べんねやろ。」
その提案にすぐに財布の中身を確認する清麻呂に椿の言葉は聞こえてないようだ。
ひぃふぅみぃとお札を数えて下を向いたままのその姿に”まぁいいか。”と椿は歩き出す。
そんなやりとりを影から観察する人物がいる事に気づかないままー。
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