第8話警告と羊羹

清麻呂と椿の地道な人助けは1ヶ月、2ヶ月と長い間続いていた。


相談を持ちかけてくる人達の中でも特に貧困に苦しむ街人を中心に活動を繰り広げている。


そんな甲斐あってか、最近では街の人達も2人を見かけるとおすそわけをしてくれたり声をかけてくれたりと確実に信用を築いていた。


「いやぁにしても。ええ調子やなぁ。」


フンフンフンと鼻歌交じりにご機嫌よく話す清麻呂はいつものように椿の2歩ほど前を歩いている。


今日は次の1件で終わりなのだ。これが終わればまた明日。そろそろ次の段階へいけるか?とチラチラ周りを見て考えていた時だ。


「…清麻呂様。」


椿がピタリ。と止まり清麻呂を呼び止めた。


「なんや?どしたん椿。」


どうしたか問うても返事がない。


不思議に思って椿に近寄り、顔を覗きこんで見れば酷く青い色をしていた。


あまりにも尋常ではないその顔色に驚き、慌てて支えようとするがその手を押しのけて椿はヨロヨロと前に進み出たのだ。


「清麻呂様。これ以上進んではなりません…」


「どないしたっちゅうねん椿!!そんな体調悪いならはよいいや!」


「清麻呂様。これは呪いにございます…」


「は?」


「これ以上進むなと…先程から警告が出ています。今回の最後の依頼、罠かも知れません。」


罠と聞いてすぐに顔を引き締める清麻呂。


たしかに最近、街の人達からの評判はうなぎ登りだ。しかもその評判は一般市民だけにとどまらず、少しづつ有権者達にも届いているのだ。


現当主、一条時成は”一条の株が上がった”とそれはそれは大変ご機嫌だそう。


だがその反面、面白く思わない者も多い。


そういう事だ。


「そんなら今日は引くしかないやろな。行くで椿。…椿?」


「清麻呂様は…先にお戻り下さい。」


「はぁ?何言うてんねん。僕が帰るなら椿も帰るに決まってんやろ。」


「ダメです。この呪いからは強い怨嗟の声が聞こえてくる…。ここで引けば悪い噂を流されます。なので私1人にお任せ下さい。」


「だから何言うてんねん!!そんっな危ないとこに1人で行かすわけないやろ!?ええから戻るで、悪い噂流されてもまたやり直せばいい。それだけや。」


「なりません。今回ここで引けばもう二度とやり直せないのです。」


「んなっ」


こんなに強く自分の意見に言い返してくる事がなかっただけに、今回のこの状況の悪さがひしひしと伝わってくる。


だからと言って1人で行かせたくはないと思うが、恐らく自分がついて行った方が邪魔なのだろうと分かってしまうのだ。


清麻呂は大きなため息を鼻から長く吐いて椿の肩を叩いた。


「これ、持って行き。」


「なんでしょう?…扇子?」


「僕のいっちゃんお気に入りや。いつも持ってるやろ?それ。」


「はぁ。」


「ここで待ってたる。せやからちゃんと戻ってきぃや、椿。」


「…。」


「ベタやけど、ちゃんと返しに来るんやで。それ。」


真剣に椿の目を見つめて扇子を握らせる。


その顔と扇子を交互に見て、椿はふぅ。と一息ついてからいつものように言い返してきた。


「本当に、ベッタベタのベタですね。ていうかキザ?漫画の世界だけだと思ってました。」


「僕の心配返せや。そない顔色で言う事えげつないわぁ。」


くっ…と少しだけ眉を寄せて顔を赤くする清麻呂に、はぁと小さいため息を返す。


そして大切そうにその扇子を懐に仕舞い、清麻呂の手を取って真顔で椿が話しだした。


「清麻呂様、私は今回のお約束よりずっと前から、あなたと交わした約束があるではないですか。」


「え?あったかなぁそんなん。」


「この呪いの巣窟にぶち込みますよ?」


「口悪ぅない??」


「悪くありません。…私は、あなたが首を跳ねられる瞬間もお供しますと約束しています。それに私の生きる意味は清麻呂様、あなたです。」


「!。」


「あなたが無事ならば、私は生きていけます。なので心配なさらず梅屋の高級羊羹揃えて待っていて下さい。」


「なんや…ちゃっかりしてんなぁ。」


はは…と零れる清麻呂の安堵の苦笑いに椿は当たり前ですとキッパリ告げる。


そのままクルリと背中を向け、椿は1人依頼主の元まで歩いて行った。


「頼もしい背中やで、ほんま。よーし、帰ってきた時にどやされてもかなわんからな、今回は奮発して羊羹2本買って来といたるわ!」


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