第7話兄と可愛い顔
「…清麻呂様、これは運気が上がってきている。という事でよいでしょうか?」
「そんなん僕に聞かれても。それを知れるんはむしろ椿やろ。」
呪い返しの1件から数日。
椿の体調も戻り、また街へ出て知名度を上げようと2人並んで歩いていた時だった。
『金銭なくともお助け頂ける巫女様と主様でしょうか!?』
と、行く先々で街人から声をかけられるのだ。
あまりの噂の出回りの早さに清麻呂と椿は面を食らいながらお悩み解決して歩いていた。
「こうも噂が広がるとは…。彼女のおかげでしょうか?」
「んー。何者やったんやろなぁ?まぁでも、第一段階はクリアってとこやなぁ。」
そう言ってパッと広げたお気に入りの扇子で顔を隠すが、目がニコニコしていて喜びを隠しきれていない。
その様子を見て本当に素直な人だなと、口に出さぬよう椿は真っ直ぐ前を見直したのだが、突然清麻呂が立止まり、口元を隠していた扇子をサッと椿の顔面に被せる。
そしてそのまま背中に椿を隠し、さっきまでのニコニコ笑顔とは逆にとても真面目な、警戒するような面持ちに変わったのだ。
「清麻呂様?」
「しっ。ちょーっと黙っとき。声かけられても喋ったらアンカンで。」
「??」
緊張の伝わるような物言いに、何事かと清麻呂の先を見たいが隠されて見えない。
仕方なく言う通りにしようと見る事を諦めた時、知らない声が清麻呂を呼んでいた。
「こんなとこで何してるの?清麻呂。」
「これはこれは兄上様。僕は暇やかて散歩してんですわ。兄上様こそなぜ街に?」
取り繕ったような笑顔で自然に聞こえるような当たり障りない会話。
だがお互いの気持ちが伝わるような雰囲気の悪さがある。
清麻呂は椿を見られぬよう特に気を張っているようだ。
「はは、そんな警戒しないでよ。俺兄貴だよ?てかさ、その後ろの子誰?」
「警戒なんてしてませんて。この子は僕の世話係の子で最近入ったんです。」
「ふーん?なんで隠してんの?」
「隠してんのと違くて人見知りなんですわ。ですから僕の身の回りしかさせてませんねん。極度の上がり症やさかい、顔見るんは堪忍したって下さい。」
「へぇー?気になるー。」
チョロチョロ回り込もうとしてはその動きに合わせて清麻呂も動く。
イタチごっこのようにクルクル回っていれば、清麻呂の兄はため息をついて掌を上にあげた。
「そんな見せたくないのかぁ。こりゃ敗北。今日は諦めるよ。」
「そうですか。そんなら僕らはもう行きますゆえ。」
「はいはい。俺も行かないと。じゃぁね、清麻呂と照れ屋さん。」
フンフン鼻歌を歌いながら興味をなくしたと言わんばかりに立ち去る兄。
その後ろ姿が見えなくなった頃、清麻呂は深いため息をついて椿を解放した。
「っはぁぁ…とんでもないもんに会ってしもうたわ…」
「兄上様でしたか。なぜこうまでして隠したのです?」
「あいつ、可愛くて若い子に目がないねん。」
「…?。だから?」
「椿みたら取り上げるやろ。僕が反対しても親父にチクッて強行突破や。だから絶対顔見したらアカンで。」
「…。」
なんとかせねば。と真剣にボヤく清麻呂をキョトンとした顔で椿が見つめる。
嘘や冗談ではなく、本気で心配しているのだ。
そんな清麻呂の言葉に照れた顔を隠すようにさっさと椿は歩き出した。
「ちょいまち椿!面屋行くで、顔をレースで隠さな!」
「でしたら早く案内してください。お悩み解決は待ってくれませんよ。」
「なんや機嫌悪いな?まぁええわ、レース買ったらじゃんじゃん働くで!外堀は完璧に埋めとかんと!」
「そうですね。さ、行きましょう。」
そうして向かった面屋でレースを買い、この日1日は全て貧困に苦しむ人達のお悩み解決に明け暮れたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます