第6話呪いの正体
女から呪物を受け取って2日が経った。
椿はまだ、離にいて姿を現さない。
さすがに心配になった清麻呂は離まできて入口の前で入るかどうかウロウロとしていた。
「もう2日やで。なんやおっかない呪いやったみたいやし…安否確認したいけどコレ、ダメやったら僕に降りかかるんとちゃうか?かと言ってどうなったかは気になるしな…」
こんな独り言をもう10分以上繰り返して右に左にとウロウロしているのだ。
「しゃぁない、決めた!僕はこの扉開けるで!」
そんな迷いに見切りをつけたのか、扉の前に立ちビシッとお気に入りの扇子を目の前に指す。
ードキドキと心臓の音を速く鳴らしながら扉に手をかけ
ギィィ。と鳴って。ー
「なにしてるんですか。清麻呂様」
「椿!?おまっ、ほんまに椿かいな!?」
「私じゃないならあなた様の目の前にいる私は誰になりましょう。」
のっそり。
そんな表現がピッタリくるように少しだけ開いた入口の隙間から椿が顔を出した。
髪はボサボサ、目の下にはクマ。
頬は2日前と違ってゲッソリとヤツれまるで生き倒れ寸前の浮浪者のよう。
あまりの様変わりに清麻呂は椿に触れようとするが、それを椿は拒んだ。
「なんや逃げんでもええやん。」
「まだお清めを行っておりません。触れては全てが台無しになります。」
「あっっぶなっ!!!ならなんで顔出したんや?終わってからでもええのに。」
「さすがに10分以上ウロウロと独り言を呟かれては屋敷の者の目もありましょう。第一、入ってこられてはそれこそ水の泡。もう1時間ほどで全て終わりますので、お部屋でお待ちください。」
「す、すまん。」
パタン。と力無く閉められた扉に小声で謝る。
清麻呂は申し訳ない気持ちでスゴスゴと部屋まで戻って行った。
◇
それからきっちり1時間。
痩せこけた頬は戻らないが、身支度をきちんと整え、身綺麗になった椿が清麻呂の部屋を訪ねた。
ートントンー
「清麻呂様、椿です。」
「お!ほんまに1時間やな。もうええんか?」
「はい。呪いは全て返しました。これであの女性も助かりましょう。」
ゆっくりとした余裕のある部屋のノック。その後に聞こえた椿の声はやはり疲労困憊と言ったようだ。
清麻呂は安心の苦笑をこぼし、襖を開けた。
ーガラー
「にしても。随分とコケたやないの?」
「呪っていた女、恐ろしいほどの執着にございました。悪鬼にならぬよう地獄へ送りましたので暫くは大きな仕事はできません。」
「怖いわぁ…。にしてもようあの女の人の関係者やと分かったな。なんでや?」
「…。」
出会った時以来、喜怒哀楽をあまり外に出さない椿ではあるが、清麻呂のこの質問に少し眉を顰める。
珍しい表情の変化に開いた扇子で口元を隠しつつ、清麻呂は目を見開いた。
「あの女性の家にはこの呪物の他に、あるモノがありました。」
「うわっ。それ持ってきたんかいな。あるモノ?」
パッと見せた呪物に、すぐさま嫌な顔をする清麻呂。
そんな主を無視し椿は続ける。
「はい。正確に言えば”いた”と表現すべきでしょうか。それは恐ろしく醜い…術者の生霊にございます。」
「…」
そこから椿が語ったのは、彼女の背後に見えていた
女の嫉妬を表すと言う般若。
その般若に到達する目前の状態であったのだと。
術者は想い人が彼女を選んだ事に酷く腹を立て、嫉妬し自ら鬼に成り果てた。
そう説明したのだった。
「いやぁ…女の嫉妬はおっかないなぁ…」
「それほど強く想っていた相手なのでしょう。しかし私が腑に落ちないのはこの呪いの作法。素人がなぜここまで完璧に呪術を遂行できたのか…」
「そんな完璧やったん?」
「はい。もしかしたら手引きした者がいるかもしれませんね。ですが今は、あの女性の元へ参りましょうか。」
よっこらせ。そう呟いてフラフラの足に喝をいれる椿を慌てたように支える。
ふぅ。と鼻から1つ息をもらして清麻呂は体を離した。
「無事に終わったんやろ?なら慌てんでも明日行けばええ。」
「ダメです。今度は彼女が鬼になりますよ?」
「…それでもや。そんな顔色のやつ連れてけるかいな。」
「大丈夫…。このくらいなら平気です。」
「意外と頑固なんよなぁ〜君。しゃぁない。」
ん。
と言って椿の目の前で背中を向けしゃがむ清麻呂。
その行動に
ん??
と椿は首をかしげた。
「行くんやろ?しょったる。」
「なぜ…。次男と言えども一条ですよ?世話係の巫女にそんな事をしてしまっては悪目立ちしますよ。」
「かまわへん。そもそもフラフラの巫女歩かせとく方が悪目立ちになってまう。」
「しかし…」
そんな事をしていいのか。
困り顔のままその背中を見つめる椿。その様子を知ってか知らずか、清麻呂は後ろの椿に少しだけ顔を向けまた悪い笑顔を見せた。
「知っとるか?椿。」
「なにをです?」
「僕も頑固者やねんで。行くなら乗り。」
「…。はぁ。時成様にうつけと叱られても知りませんよ。」
「今更や。」
負けた。と言うように諦めのため息をこぼし身を預ける。
清麻呂は嬉しそうに立ち上がって屋敷を後にしたのだった。
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