第4話強い眼差しとこれからの計画
「「っはぁぁー…」」
女中騒ぎから一転。
すぐに一条当主、時成の元へ向かった清麻呂と椿だったがそれはもう精神的な修羅場だった。
「とんでもなく嫌な顔してましたね、時成様。」
「ほんまになぁ。あれが息子に向ける顔かいな。まるで毛虫でも見るかのような目やったで。」
うへぇ。と椅子にもたれかかって遠い目をする清麻呂は先程までの父の顔を思い出しているようだ。
あまりにも機嫌悪い表情に、出て行けと言われるかと清麻呂はヒヤヒヤしたが「兄のように立派な政治家になるため、巫女をさせつつ身の回りの世話をさせたい。」と願い出ればコロリと反応を変えたのだ。
さすがは長男教の一条家。
そこからずっと機嫌を損ねないように、よいしょよいしょと父と兄を持ち上げ続けだったものだから2人とも精神的に疲れ果ててしまったのだ。
「結果出て行けと言われずに済んだのでよかったのですが。さて、これからどうするのです?」
「これから?そんなもん家に帰って二度寝や、にーどーね。」
「バカ言わないでください。あなたの無謀な試みの計画を聞いてるんです。」
「ちょ、アホはええけどバカは酷いやん。」
「でしたら計画を練ってください。ただたんに謀反者として首を跳ねられるだけは嫌なので。」
ズズズ…とアールグレイの香り高い紅茶をゆっくりと椿は飲み込む。
ここは清麻呂御用達のお気に入り喫茶だ。
完全個室になっているこの空間は誰にも邪魔をされずゆっくりと過ごせると、頻繁に通っているそう。
店主は清麻呂が一条の次男だと知っているが客として平等に扱っているようだ。
その事も清麻呂は大層気に入っている要因なのだが。
「辛辣やなぁ、まったく。まずは僕らの株を上げる。そこからやな。」
「私達の?どのようにです?」
思っていなかった返答に、少しだけ目を見開いて清麻呂を見ればいつものようにニンマリと悪い笑顔を浮かべている。
その顔に若干の不安を覚えるのは椿だ。
飲んでいた紅茶のティーカップをそっと置き、まじまじと無言を貫いた。
「そない身構えんでも笑。やる事は簡単、お悩み解決作戦や。」
「??と、言いますと?」
「民衆のお悩みがあんねやろ?例えばそうやなぁ…夜な夜な幽霊が出るとか、そういった事やな。得意分野で攻めてこ。」
「ん?株を上げるとは一条の中で。ではなくてですか?」
椿の問に一瞬キョトンとした顔を見せた清麻呂は次にクツクツと笑い始める。
なぜ笑われるのかと眉を顰める椿にすまんと謝罪を入れて理由を語り出した。
「一条の中では大人ししとくで。特に君の存在を持ち上げるつもりはない。むしろひた隠す。」
「なぜです?家の中でも信用があれば動きやすいのでは?」
「そんなもんない方がええねん。上の奴らから目ぇつけられてもかなわん。君の実力も知られてもうたら奪われてまうからな。それに欲しい信頼は一条やない。民衆や。」
「…」
「なんでか分かるか?」
「いえ、私には…」
民衆の信頼を集めても…。
有権者の信頼を得た方が心強いのではないかと首を傾げるが、清麻呂がちょいちょいと手招きをして窓際に呼んだ。
「見てみぃ」
「なんでしょう?…特になにもありませんが。」
「あんねん。どえらい人やろ?」
「そうですね。そりゃ街中ですから。」
「この人数が味方につけば強いやん。例え有権者の信頼を得てこの国取ったとしても民衆は納得せぇへん。僕が上に立ちたいんは民衆を守るためや。」
「…」
「だからまず、民衆を味方につける。そんで国取りが成功した暁には民衆の力を借りる。僕らの第一歩やで。」
真剣に街を見下ろし、昨夜のような強い眼差しで語る清麻呂を見てまた街を見下ろす椿。
「…私があなたの目線にいける日はくるのかな。」
ボソリと無意識に呟いた声が清麻呂に届いたのか、今度はギョッとした顔を椿に向けた。
しかし当の本人は真剣に街を眺めて目も合わない。無意識かとついニマニマと口は緩んでしまった。
そんな清麻呂の視線に気づいたのか、椿はすぐに変態を見る目を向けて問いかけた。
「なんです?そんなニマニマして。」
「いんやぁ?ええ子を拾ったなぁってな。」
「気持ちわr…。元々いい子ですから。」
「前言撤回や。気持ち悪い言うたの聞こえてんで。」
「気のせいでは?ではさっそく街に行きましょう。善は急げといいますし。」
「えぇ、もう少しゆっくりせぇへん?僕疲れたわぁ…」
「何を言ってます、日が暮れますよ?」
さぁさと急かす椿に渋々席を立つ清麻呂。
お店を出ていく2人の後ろ姿を店主が微笑んで見送っていた。
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