第2話国取りコンビ、完成。
2人の出会いから少し経ち、歩き出した森の先に見えてきたのは政治家達が住むような高級住宅エリアだった。
そして男が立ち止まった家の場所。
それは政治家の中でもトップクラスのエリート一族”一条”の表札をぶら下げた家だ。
「…あの。1つお聞きしても?」
「なんや?」
「貴方のお名前は…。」
屋敷の裏手に回り、しゃがみ込んで生い茂った雑草をゴソゴソと掻き分けるその背中に不安を覚える。
すると男はその姿勢のまま当然のように答えた。
「言うてへんかったか?一条清麻呂。ここの次男坊やで?」
「おうまいごっと。」
「なんやねんオーマイゴットって(笑)自分陰陽師やん。」
ヘラヘラ笑って見つけた外壁の穴に入り込んでいく清麻呂。まさかの事実に椿は呆然と立ち尽くしてしまっていた。
「私あの池に沈んでた方がよかったんじゃ。」
「なにしてんねん椿、はよ入り!」
「泥船どころか金箔ぬりぬりされた豪華客船だった…。」
「アホ。僕の計画も中で話したる。離れに着くまで誰にも見つかったらアカンで。」
◇
「これが使われていない離れ…ですか?」
「せや。物置みたいやろ?」
腕を引かれて連れてこられた離れはとても立派な物だった。
物置のよう。と表現したように沢山の物で溢れかえっているがどれも流行りの高価な物ばかり。ここでも椿は口をアングリと開いたままだ。
「本当にいいんですか?使って。」
「かまわんかまわん!いらん言うて親父から押し付けられた場所や。ここにある調度品なんかも勝手に使ってええで。」
「さすがエリート一家ですね。そんな貴方が、自殺志願の陰陽師を捕まえてまでやりたい事ってなんです?こんな金も地位もあったら出来ない事なんて稀でしょう。」
少し引き気味に清麻呂を見ながら問う。
清麻呂はチラッと椿をみながら椅子に腰掛け、その後はジーッと見つめ続けた。
「…僕な、この街がめっちゃ好きやねん。」
「は?」
「街に遊びに行って色んな人が温かく接してくれる。人情味のあるええ街や。」
「…」
答えになっていない答えに、椿は眉を寄せ意味不明だと言わんばかりに清麻呂を見つめ返す。
その顔に少しの苦笑を返し清麻呂は続けた。
「この前街に出た時にな、ある街人に言われてもうてん。」
「なにをです?」
「”金をくれ”。…必死に縋ってきよって見ればガリガリに痩せた子供やった。えらいしんどかったわぁ…」
その時を思い出しているかのように頬杖をつき、はぁ。と辛さを紛らわすため息を残す。
その言葉を最後に重々しい沈黙のままどちらも口を開かないでいた。たしかに椿自身も何度か飢えに苦しむ民を見てきているからその貧富の差は感じてしまっている。
お上は何をしているのかと憤りを感じた事すらあった。
だがそれが現実だとしてどうする事もできないのだ。
「それで。貴方はなにを?」
ぼうっと遠い一点を見つめたままの清麻呂に再度ふる。
そのままの姿勢でこちらを見もせずに清麻呂は言った。
「国取りや。」
「!?」
空気が凍る。
ハッキリと告げたその内容にどちらも動く事ができないでいる。
先に口を開いたのは清麻呂だった。
「僕がこの国の頂点に立つ。貧富の差も飢えも僕がなくす。」
「ってそれ…重罪じゃ…」
これ以上開けられないほど大きく目を見開いた椿の顔を、清麻呂はしっかりと見つめ返した。
その顔はいたって真剣で、とても強い覚悟がギラリと眼に宿っていて恐怖すら感じてしまう。
「バレれば即お陀仏やろな。」
「分かっているのになぜそんな事を。何もしなければこのままエリートとして何不自由なく過ごせるのに。」
「なんでって、最初に言うたやん。僕はこの街が好きやねん。しゃぁないって一言だけで見捨てとうないんや。」
「…」
重い。
やろうとしている事もこの覚悟も。
ピリピリとした痛い緊張が肌を刺すようで、椿はゴクリ。と固唾を呑んだ。
「ま、これが僕のやろうとしてる事やね。どや?僕は君が必要やけど。やるか?」
「…」
やるか?と聞かれて今更やらないとも言えないだろう。
ここまでの事を聞いてしまったのだ、やらないという選択をしたとして聞かなかった事になんてできるわけがない。
椿はジッと清麻呂の目を見つめ返した。
この男は誰が止めようとも、自分が仲間にならなくとも必ず遂行するだろう。それが分かってしまうのだ。
「…今更やらないなんて出来るんですか?」
「それは勘弁願いたいわ。ここまで話してもうたし。泥船すぎるか?」
「はぁ…。泥船どころが道連れ確定ですね。」
「沈む前提やん。」
「そうですね。でも…いいですよ。私も言った通り泥船でも後悔はありません。なにをすればよいので?」
「顔は可愛ええクセに生意気やわぁ。せやな、僕の周りには敵が多いねん。最近も大臣候補が1人呪い殺されたな?おっかないやろ。」
「なるほど。私は魔除けですね。」
「妖からも守ってほしいねん。家の陰陽師は信用できひん。やってくれるか?」
「分かりました。貴方のことは私が守りましょう。」
その答えに嬉しそうにニンマリ笑った清麻呂は椅子から立ち上がり、スッと右手を差し出す。
その行動になんの意味があるのか分からず、椿は首を傾げた。
「握手や。頼りにしてるで、椿。」
「…。貴方が首を跳ねられる瞬間もお供しますよ、清麻呂様。」
「いらん事言うなや。」
グッとお互いに強く握手を交わし目と目を合わせる。
まだぎこちないが国取りコンビの完成だ。
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