第2話 皆の様子がおかしい

「すげぇ、あの藤堂が逃げ出した」


「一条の奴、なんて度胸だ」


 男子生徒は皆、驚きを口にしている。

 

 完全に引かれるだろうが、仕方がない。俺はナメられることと理不尽なことが大嫌いだ。この一条恭二がいじめに屈することなどあり得ない。


「あ、あの! ありがとうございました。私たちを助けてくれて」


 沙原さんが感謝の言葉を口にする。


 メガネ女子だが、奥に覗く相貌はくりりとして可愛いらしい。不謹慎だが、今にも泣き出しそうな表情が可憐だ。


 俺には一生縁のない女性だろうがな。


「別に。俺は本当に死にたかっただけだし。ちょうど自殺の手助けをしてくれる人を探してただけだし」


 俺は心にもない事を述べて誤魔化していた。


 やっぱり無理だ。女子の前ではどうしてもカッコつけてしまう。いじめを見て見ぬふりできなくてハッタリかましてやりました、なんて言えない。


「そ、そうなんですか……」


 これでドン引きされただろう。なんで肝心なところで中二病発動しちゃうかな。


「でも私、一条くんには死んでほしくないです! せっかくの恩人が自殺するところなんて見たくない!」


「そうだよ、一条は強い男だ! 死のうだなんて弱気なこと言うな!」


「私たちにできることなら何でも言って?」


 なんか男女問わず称賛の声が上がっている。ひょっとして俺、褒められてる?


「いや、そんなこと言うもんじゃないぞ? 俺が藤堂みたいな奴だったらいいように利用される」


「一条くんはそんなことしないですよね?」


 沙原さんが上目遣いで恐る恐る問いかけてくる。


「そりゃあな。同年代の子供相手に威張って支配したところで仕方ないだろ。俺はどうせなら格上と戦って死ぬと決めている」


 俺はなぜか昭和のヤクザみたいなことを言っていた。我ながら、なんで死ぬ前提なんだよ。くそ、中二病アニメを見すぎたせいか。


「なんて立派な心懸けだ!」


「やっぱり一条くんってすごい人だ!」


 なんというか、不自然なまでにおだてられているな。よほど藤堂の圧政から逃れられたのが嬉しいらしい。長期間のストレス反動でおかしくなっているんだろうな。

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