サイコパス認定されたぼっち、なぜか美少女に囲まれる

川崎俊介

第1話 専制の終わり

「さて、今日の当番は?」


 転校して早々に、クラスメイトの藤堂憲二が問いかけてきた。全員に呼び掛けているようだ。当番とは、掃除当番のことか? まだ昼休みだ。時間的には早い気がするが。


「はい! 俺です。すぐ買ってきます!」


 男子生徒の池田次郎がすぐさま教室から走り出し、パンと牛乳を確保してきた。


 なんだ。こんな前時代的なパシりがいる学校なのか。ここは進学校のはずなんだけどな。


「俺は今日牛乳の気分じゃないんだよな。それくらい察しろ」


 藤堂はその場で牛乳パックを開け、男子生徒の頭上に注いだ。紺のブレザーが白く汚れていく。


「おい、女子の当番は誰だよ? 拭いてやれ」


「あの、私ですが……」


 名乗り出たのは、気弱そうなメガネ女子だった。確か、沙原さんだったか?


「ったく、女は雑用しか能がないくせに、気が利かないな」


 藤堂のやつ、いつの時代からタイムスリップしてきたんだ? 時代錯誤も甚だしい。


 というか、当番ってなんだ? 生け贄の間違いじゃないのか? なぜ皆こんなのに従っている? 逆らえない理由でもあるのか?


「くっ、くそっ、なんで俺がこんな目に……」


「あぁ? なんか文句あるのか? 女に汚れを拭いてもらえて満足だろう?」


「うわああ!」


 池田は藤堂に飛びかかる。だが、周りの男子が腕を掴んで止めた。


「耐えてくれ、池田。あと半年の辛抱だ」


「みんなの進路が懸かってるんだ」


「くそっ、くそっ!」


「おい、新入り。お前もこのクラスの力学は分かっただろう? 俺に歯向かえば皆の未来を潰すことになる。分かったな?」


 藤堂は俺に向かってそんな脅しを吐いてきた。


 勘違いも甚だしい。俺にそんなのが有効だと思っているのか?


「おいお前、聞こえてるのか!?」


「さっきからお前お前と言っているが、まさか俺のことか?」


 俺がそう返すと、クラス全体の空気が凍りついた。


「お前以外に誰がいるんだよ? まったく、教育がなっていないようだな。おい、委員長!」


「は、はい!」


 次は学級委員長らしき女子が立ち上がった。


「お前の責任だ。どうしてくれる?」

 

 藤堂は女子の襟首を掴み、叱責している。さすがにやりすぎだ。


「おい藤堂、人を『お前』呼びするのは止めたほうがいい。見下してると思われる」


「あぁ? 今のは新入りとはいえ許されない言動だ。ナメてると帰り道に不慮の事故に遭うかもしれないぞ?」


 大体分かった。藤堂はなんだかすごい権力者の子息なのだろう。虎の威を借る狐か。


「そんなに気に入らないなら、俺を殺せばいいじゃないか」


 俺の口をついて出たのは、そんな言葉だった。


「そうか。そんなにブチのめされたいか」


「ブチのめすだけじゃ、ぬるいだろ。殺してみせろよ。ほら」


 俺は先端の鋭利なハサミを取り出し、差し出した。


「これで俺の心臓を刺せばいい。そうすれば目障りな男が視界から消えるぞ?」


「はぁ? 何言ってる? お前おかしいんじゃないのか?」


 この程度で戸惑うか。俺のハッタリは効いているようだな。


「藤堂くん、詳細は知らんが権力者の家系なんだろ? 殺人事件を揉み消すくらい簡単なはずだ。それこそ、不慮の事故ということにすればいい。俺は事故でハサミが刺さって死ぬ。それで丸く収まる」


「お前、何言って……」


 藤堂と、周りのクラスメイトはドン引きしている。


 あ、これぼっち確定だな。


 とはいえ、手を緩めるつもりはない。


「大丈夫だ。藤堂くんなら上手くやれる。俺を殺せば、皆に示しがつく。威厳を示せる。クラスの人間はもっと従順になる。俺を殺した罪悪感が残るかもしれないが、大丈夫。そんなのすぐに忘れられるさ」


 俺は藤堂にハサミを握らせてやる。


「さぁ、あとは一突きするだけだ。さぁ!」


「このキチガイが!」


 藤堂はハサミを弾き飛ばし、教室を出て行った。


 ようやく平和に昼飯が食える。


 まぁ、こんなサイコパス的脅しをしたんだ。明日からハブられるのは確定だろうがな。


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