第18話

サラは鍵もかかっていない監獄に戻った。壁に穴の空いたところ以外はなにも変わらずに平穏に過ごした。


三日後、魔王が帰ってきた。


「お帰りなさい」

「少しだけ寝る」


「え?」


感動の再会とはいかず、サラはショックで聞き返す。

魔王はさっさと眠り始めた。




眠りはじめて丸一日経った。

寝息が聞こえてくるのに起きる気配がない。


夕食時、お姉さんが来たので質問をした。


「あの人、全然起きないのだけど大丈夫?」

「はい、少し毒が回っているので眠っていらっしゃるだけです」

「え? ええ――?」


大型動物を一瞬で殺す毒が回っていることに衝撃を受ける。


「解毒剤や血清などは施しましたので問題ないかと思います」

「はあ、それで助かるのね」


三日は動き回っていたような気もするけど本当に大丈夫なのだろうか。

お姉さんは微笑んでいつもの動作で戻っていく。


ベッドに戻って魔王を観察する。


(全部きれい……まつ毛、長いな。唇――)


唇を見たときある衝動にかられた自分に気がつく。

真っ赤になるサラ。顔を埋める。


「こんなときに何を考えているのっ!」


頭を撫でられた。


「!」


パッと顔をあげるサラ。

魔王がこっちを見つめていた。


「お、おはようござい、ます?」

「サラ……逃げなかったんだな」

「ああ、ええ?」

「ここから出る方法を考えていただろう?」

「うーん、ええ、まあ前は」


そんなこともあったなと思う。でも今はそんなつもりは微塵もない。


「でも今はもう少しいても良いかな、って思って」

「少ししかいてくれないのか?」


魔王がサラを抱き寄せた。


「それは……」

「ん?」


返事を促された。覚悟を決めて言ってみる。


「好きに、なりました」


赤くなりもじもじするサラ。


「誰をだ?」


魔王がサラを押し倒す。短い悲鳴が思わず出る。

魔王は怒っているようでいつもより冷たい目をしている。

思った展開と違う。


「俺はそいつを始末しなければならないようだな」

「え?」


その必要はないのだけど何か勘違いしている。

「誰を好きになったか、言え」


さっき勇気を振り絞って言ったつもりが全然伝わっていないようだ。

目を見て伝えたいが恥ずかしい。だけど今言わないと誤解が大きくなる。


「……貴方」


その瞬間、魔王が飛び退けるようにサラを放した。サラに背を向けて顔を手で覆っている。

「……」

その背中に抱きついた。


「貴方って言ったよ」

「わかった」


魔王が向きを変えようとするのでサラは抱きつくのをやめた。

今度は魔王がサラに抱きついてきた。どちらからともなく手をつなぐ。


「今は毒が回っている影響で何もできないが」

魔王が優しい笑みをサラに向ける。


「サラ、好きだ」


サラは高揚しすぎて気絶しそうなほどくらくらした。瞳が潤んできた。

サラは魔王を見つめながら額をくっつける。



「今更だけど貴方、名前は何というの?」


「……レウだ」


「え? 私の昔の飼い猫と一緒ね」

「なんだそれ」


サラはくすくす笑った。


「レウ」


サラは愛しさを込めて呼んでみた。


「誘惑するな」

「あら、5ヶ月はがまんしてくれるのでしょ?」

「撤廃する」

「卑怯者。約束守ったら何でもしてあげるって思ってたのに」


「本当だな!」


やけに嬉しそうな魔王、サラは頬にキスをした。この攻防戦はあと5ヶ月続いていくようだ。

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