第14話

サラはベッドに座り、頭を抱えた。あからさまに落ち込む。また泣きそうだ。

床を見ていた。



「きゃぁぁ――!!」



「サラ?」

サラは魔王に抱きついた。


「どうした?」


「Gよ!銀のG!」


足元を銀色のゴキブリが通ったのだ。銀のGはかなり素早い。


「虫か」

「ここに住むのはもう無理!引っ越しましょう!」

「ここより良い牢屋は無いぞ」

「じゃあ退治して? お願い」

「どこへ行ったのかわからない」


魔王がベッドを持ち上げるとGが出てきた。


「きゃぁぁ――!! いや――!!」


サラはしゃがんでいる魔王の顔に思いっきり胸を押し付ける。

混乱するサラ。


「早く退治して!!」

「いや、見えない」


サラが押したつけた胸で見えないようだ。

サラは魔王の背中に回り込んだ。


「どこ行った?」

「無理! わからない、無理!」

「風呂場を見るからそこにいてくれ」


しばらくして物音がした。氷柱の先にGを刺して魔王が出てきた。自主規制ものだろう。


「いやぁ――、早く捨てて!」


魔王が部屋を出る。鍵はしっかりかけているようだ。


「はあ、疲れるわ」


魔王がブツを片付けて戻ってくる。


「水飲むか」

コップに水を注いで来てくれた。


「ありがとう」


自然とお礼をしてしまった。人としては正解だろう。


「お礼は何をしてくれる?」

「えっ? お礼……そんな約束した?」

サラはとぼけるしかない。これ以上つけ込まれたくない。


「約束はしていないが」


じっと見つめてくる。

サラも魔王の目を見て答える。


「ありがとう」


魔王は顔を近づけてくる。サラは人さし指で唇を押さえる。ぶりっ子を発動させた。


「だーめ」

「5ヶ月22日後か?」

「もっと延びないのかしら、その期間」

「だめだ」


サラは首を傾げた。

「それ以上は我慢できない」

魔王はサラを押し倒した。


「……欲しい」


両手を塞がれ、体重をかけられて今までのお遊びモードとは違うみたいだ。サラの顔に熱が集まる。

「サラ」

「約束は、守って、お願い」


サラは目をつむって懇願する。魔王はサラの胸に顔を埋めた。長い息を吐く。


(助かった)


「Gは一匹見かけると百匹はどこかにいるらしいぞ」

「へっ?」

「俺はまだ虫よりは好かれているらしいな」

「はあ……?」


何と何を比べているのだろう。少し呆れる。


「一匹殺す度にキスするからな」

「えっ?約束と違う」

「サラ、良いな?」


魔王は笑顔だ。本気で言っているらしい。


「良くないよ、ちょっと!」


魔王はサラを捕まえて口にキスをした。

「んんっ」

丁寧に何度もされた。最初は羞恥にたえていたが、しだいに頭が真っ白になって何も考えられなくなった。


「……はぁ」

「サラ」


もう一回してきそうになったので、さすがに止めた。


「もうダメ。もうおしまい」

サラの胸に頭を押し当てる。魔王はため息をつく。

サラの心臓が早鐘のように脈を打っている。


そそくさとトイレに逃げ込んだ。

顔が熱い。


(なんてこと?)


サラは混乱を極めた。


(全然、嫌じゃない)


憎い相手のはずなのになぜか嫌だと突き飛ばせなかった。頭がぐらぐらする。


(あの顔のせいだわ。なんてこと!)


他と比べてきっとサラのタイプなのだろう。

トイレの中でくるくる回る。


(嘘でしょ?! 嘘!)


両手を頬に当てながらショックを受ける。


(好きなの?!もしかすると好きになったの?)


そんな自分が信じられない。

(ダメよ、ダメ。そんなの絶対ダメ!)



サラは一旦落ち着くとトイレから出た。

魔王を見ると相変わらず良い顔形をしている。


「下したのか?」


セリフは最悪だ。げんなりした。


「違います。女子はいろいろあるの」

「そうか……じゃあ、横になれ」

「んんん?」

「そういうときは楽にした方がいいだろう。体が辛くなると聞いたことがある」

「あっ!なるほどね」

どうやら月の障りと勘違いしてくれたようだ。


違うのだが、手を出しにくくなっていいだろう。

「では、お言葉に甘えて」

素直にベッドに横になるサラ。

魔王が背中に張り付いてくる。


「なぜ?貴方も体調が悪いの?」

サラはいけないと思いつつドキドキしてしまう。


「いや、寝るだけだ。安心しろ」


「ねえ、なんで人間を殺すの?」

サラは不意にこんな質問をしてしまった。


「人間が俺を殺しに来るからだ。俺はただ、それを蹴散らしている。人間と魔族が殺し合うのはずっと昔からで、何代も前の先祖から変わらないことだ」

「そうなのね」

「サラが害虫を殺すのと同じようにな」

「虫なのね、私たち……」

「害のあるものを排除して普通に生きているだけだ」


魔王の寝息が聞こえてきた。本当に寝つきが良い。


つられてサラも眠ってしまった。

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