第13話

「お姉さん~。忙しいとは思うけどお話ししよ~」


お姉さんは微笑んだまま食事を運び終えると戻って行く。


「ねぇ~ってばぁ~」


猛烈に誰かと話したい。というのも、魔王が丸5日帰ってきていない。

これでも寂しくなってきたのだ。


「まあ、お姉さんの顔が見られるだけでも、いっか」


それにしても魔王は鍵をかけたままどこへ行ったのだろう。魔王が死んだらたぶんこの鍵は開くだろう。

それはあまり気にならない。


花も今の季節は毎日水をしなくてもいいし、やることが少なくなってきた。


「運動したいな」


クッションを殴れば多少のストレス発散になるのではと思いつく。

クッションを魔王だと見立て殴る。カバーが破れて中の羽毛が出てくる。


「発情スケベ野郎!参ったか!」


サラは逆に虚しくなる。

「片付けるか……」


奥からホウキとチリトリを取り出そうとする。


「というか、なんで私こんなことに?」


前世の自分が魔王討伐に失敗したからだ。過去を思い出す。自分を育てた家族、切磋琢磨し合う友、心から慕った人、もうどこにもいない。

あの頃から300年くらい経ってからサラは生まれ変わった。聖女でも何でもない女の子だ。


今世も優しい両親だった。でもさすがに魔王相手だと歯が立たないから、迎えになんて来てくれない。突然、魔王にサラは連れ去られた。


「みんな無事に生きていれば良いけど」


それだけが生きる希望だった。

「でもさすがに心が折れそう。誰かと話したい」


食事時には、お姉さんにひたすらスルーされる。地味につらい。

サラは夕食を食べてから湯浴みを済ますと不安にかられて泣いてしまった。


なぜ自分がこんな目に遭うのか、全ては過去の自分のせいと責めていた。


ベッドの上で膝を抱えて泣いていると足音がする。

金属の擦れる音がする。


「サラ」


やけに良い男性の声がする。魔王だ。

魔王はベッドに上がり、そっとサラの頭を撫でた。


「サラ?」


サラは勢いよく顔をあげると魔王の首を絞めようと押し倒す。

だけど首を絞めることはできなかった。体温と脈を打つのを感じるのだ。ぼろぼろ涙が落ちる。

魔王はずっとサラを見上げている。


そっと頬に触れる。


「嫌いでも憎しみでもサラが俺に向ける感情があるのなら何も無いよりはずっといい」


好かれないなら嫌われようとするなんという悪趣味な思想か。

「……最低ね」


魔王はサラの涙を拭っている。


「それでもサラが欲しい」

「なんでよ。なんで私?」

「……良い眺めだ」

「はあ?」


答えになってない。会話になっていないと考えながら、冷静になる。

気がつけばサラが魔王を押し倒したまま見下ろしている。

すぐに勢いよく魔王から離れた。


泣いていたので顔を洗いに洗面所へ向かった。

洗面所から戻ると呼ばれる。


「サラ、こっちに来い」

「いや」

「1・2・3・4――」

「腹立つ!」


腹は立つが結局魔王の言うことをきいてしまう。


「いつから泣いていた?」

「ほんの少しよ」

「こんなに瞼を腫らしてか?」


魔王はサラに触れてくる。


「貴方には関係ない」


魔王の手を払う。その手を掴まれる。

関係無くはないがそう答えるしかない。

魔王はサラの瞼に触れる程度のキスを落とす。


「さみしかったのか?」

「違う」

「サラ、正直になったほうがいい。お前がすがり付けるのは俺しかいない」

「……貴方にはわからないわ。私がどんな気持ちなのか」

「俺が憎いだろう?」

「ええ。とても」


「それでもこの先、憎い男の妻になり、子を産むんだ」


サラは目を見張った。


「……無理」


口から自然とこぼれた。この先絶望しかない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る