第12話

「暇だな。何か他に必要なものはあるか?」


「必要なものはお姉さんを通して取り寄せてもらうから。それより外の空気が吸いたいわ」

「外か。外へ出たら逃げようとするだろう?」

「もちろん」


サラは魔王の目をまっすぐ見て答える。


「そうか」

魔王は何か考えている。


「近くに来ないと半年を三ヶ月にする」

「ちょっと、なんでよ!」


「10秒以内だ」

「はぁ?」

「1・2・3――」

サラは急いで近くに行く。


「子供みたい。これで満足?」

「ああ」


魔王はサラを横抱きにした。数歩歩いていきベッドに座り、膝の上にサラを座らせた。


「まだ半年よね?」

「5ヶ月と27日だ」

「刻むわね」


魔王はサラを逃がさないように腰の方をホールドしている。

サラは距離を取ることを諦めた。膨れっ面をする。何をしようにも明らかに不利だ。


(悔しい……)


サラは魔王と向かい合うように向きを変えた。思いっきり睨み付ける。

魔王は微笑んでいる。

魔王の頭にある角を掴んだ。

思いっきり頭突きする。


「痛っ!」


はじめて頭突きしたときより硬くなっている。サラは自分の額を押さえる。


「痛いか? 見せてみろ」

「いやよ」


サラはそっぽを向いた。


「氷水で冷やそう」

魔王はサラをベッドに座らせて部屋から出て行った。



氷嚢を持って戻ってきた。それをサラの額に当てようとする。

「なんでよ……」


それを手で制止する。


「ん?」

「優しくしないで……」


サラの目からぽろぽろ涙がこぼれる。


「大嫌い」


氷水の入った袋をそっと押し当てられた。

魔王はサラの前世・聖女リムニから故郷、守りたい者、大切な人たち、自分の命、すべて奪った相手だ。


(好きになんてなりたくないのに)


だけど、どこかで惹かれている自分もいた、そんな自分が許せない。

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