第11話

いつもより枕が硬い。そして体が温かい。


「ん?」


目を開けると魔王。それはいい。もう我慢する。


「近い」


ベッドの真ん中に連れ戻されて、くっついて寝ていたようだ。

魔王はまだ寝ているようだ、珍しい。


離れようにも腕でロックされている。逃れようとじたばたする。


「起きたのか」

もっと近くに抱き寄せられた。


「顔を洗いたいの」

「……もう少し」


魔王は寝ボケているのかまた目をつむる。


「起きて、放して!」

「こういう時はキスして起こすものだろう?」

「貴方どこでそんなこと覚えてきたの?!」


どこで何から仕入れた情報だ。絵本だろうか。

サラが暴れても放してくれない。


「ほら」


魔王は見つめ攻撃してくる。威力は高い。


「というか起きてるじゃない」

「今日は外出しない。腕は外さなくて良いのか?」

「うーむ……」


サラはちょっとの隙に魔王の腕の中でくるりと回った。

そしてこめかみに音が少しするようにキスをした。

魔王の手の力が緩んで離れた。その手で顔を覆っている。

悶えているようだ。


サラは洗面所へそそくさと逃げた。


(一日中くっついていられるか、この野郎)


顔を洗ってタオルで拭いていると魔王が背中にはりついてきた。

鏡越しで見る魔王は笑顔だ。とびっきりの無邪気な笑顔。

サラはその表情を見て驚く。


不覚にもサラはきゅんとしてしまった。


まずい予感しかしなかった。




その後、花に水をやり、読書をはじめたがずっと魔王がサラを観察している。

魔王が近くに行くとサラは同じ距離を離れる。

全然、集中できない。


「サラ、そう警戒するな」

「いや、普通するでしょ?」

「半年は我慢するから」

「信用できないわ」


サラは本を閉じながらじとりと見る。

また魔王が近づいてくる。すすすとサラは逃げる。


「サラ」

「来ないで」

「……」


魔王は諦めたのか化粧台のイスに座る。またじっと見てくる。

サラは警戒を続けながら本棚に本を戻す。もう読書を楽しむどころではない。


「今日はなぜ出掛けないか聞かないのか?」

「聞かない」


サラは魔王から視線を外さない。いつ近づいてくるかわからないからだ。

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