第10話

とりあえず大人用の本は空いている棚に閉まった。もう封印だ。


(二度と出すものか、誰のチョイスだこの野郎)


半年間は手を出さないらしいが何が起こるかわからない。

シャワーを浴びて化粧水やらをつけているときに思う。

もしかしたら本当に一生ここから出られないのかもしれない。


ワゴンの車輪が軋む音がするのでお姉さんが来るようだ。


「予定より早く届きました」


小さめの鉢植えに植えられた花だ。5本ある。それと水やり用の水差しと肥料の入った袋があった。


「わあっ、キレイね。これも私にくれるの?」


お姉さんは微笑んで頷く。


「大事に育てるわね」


お姉さんは微笑んで一礼するとまた戻っていく。


(ちょっと待って)


大事に育てるだとか脱出計画を立てている人間の言うことではない。

切り花を想像していたが鉢植えをプレゼントされた。もうここに根付けということか。

「はめられたわ~」


そういいながら花図鑑を探す。


「でも脱出するまで心の癒しは必要よね」


鼻歌を歌いながらページをめくる。

育て方と花言葉まで載っていた。

「君を離さない、永遠、死んでも好き、生まれ変わっても……」


4つ目あたりで調べるのはやめた。メッセージ性がなんか強かった。可愛い花なのに意外と重い。

「誰の差し金だろうかね……ははっ」


とりあえず一回目の水をあげた。



「ねー、キレイでしょ。お姉さんにお花もらったの」

「そうか」

「まあ、男の人は興味ないでしょうけど~」


サラは花に微笑みかける。

魔王はサラのあごを掴み無理矢理に自分に向かせる。


「……なによ」

「花にそんな顔するな、襲うぞ」

「どんな顔よ」


サラはきょとんとした。


(花に嫉妬しているのか、この魔王は。器ちっさ)


魔王恒例のじっと見る作戦だ。

(ならば、こちらも引かないぞ。にらめっこだ)

キスしてきそうになったので、顔面を手で塞ぐ。


「半年あるでしょ? 私のこと大事じゃないの?」

サラは渾身のぶりっ子をした。


魔王が目を見張った。そのままベッドまで行き枕に顔を埋め、長い息を吐いている。


(勝った!)


サラは心の中で勝ち誇った。


猶予があるのは半年だけとも言えるのだが。

あんなに残虐な殺戮を繰り返していた魔王がサラの手のひらの上にいることが不思議でならなかった。


(改心したの? まさかね)



「サラ……一緒に寝よう」

「いや、一人で寝ろや」

「そう言うな」


「じゃあ、ベッドの端っこでね」

「落ちるぞ」

「良いの!」


(というか、なんという中身のない会話だ。恋人でも新婚でもないのに甘えてくんな)


サラは魔王に背を向けて眠った。

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