第9話
「お姉さん、話し相手になってよ」
相変わらず微笑むだけだ。
「お姉さん~、お願い~」
微笑んで一礼するとまた戻っていく。
「ダメか」
また夕食は一人だ。いつも美味しいけど一人で食べるのがさみしい。
かといって、魔王と食べるのも変かと思う。別に仲良くなりたいわけではない。
監禁生活の四日目、早くもホームシックだ。豆を食べながら膨れっ面をする。
(この豆、ふっくら炊けていて美味しいのだけど)
それだけで機嫌が治った。
食後は何するか考えはじめた。
目をつむり、本を選んだ。今日はその選んだ本を最後まで読む。
「こ、これは……大人向けの小説だわ」
冒頭は「起」の部分が省略され、いきなり男女のイチャイチャからはじまり、どうしてこうなったパターンで「起」を説明しだす構成だ。
とりあえず10ページだけ読んでみることにした。
「えろい……いやいや、すぐ身体を許しすぎでしょ。そんなことになる?」
ツッコミ始めたらけっこう面白いかもしれない。
気がついたら読み終わっていた。
「ええっ、今何時?」
急いで湯浴みをすませないとまずい。お風呂上がりでばったり鉢合わせ。
「なーんて、ははっ」
渇いた笑いが漏れる。
「恥ずかしいというか悲劇よね」
風呂場のドアが勢いよく開く音がした。
「!!!!」
「ああ、いたのか」
サラは必死にお湯に身体を沈めた。
「いたのかじゃない!あっち行って!」
魔王が出て行ったのを確認してあがったが逆上せたのか恥ずかしいのかわからない。
「逃げたのかと思った」
「そうできたらいいのにね」
じっと見てくる。
心の中で「無視無視」と思う。
後ろから抱きついてきた。
「ちょっと!髪が濡れてるから」
「乾いたら良いのか?」
「良いわけないでしょ」
「……良い体してるな」
(ぶっ飛ばす、絶対ぶっ飛ばす。この発情スケベ野郎)
「離れて」
魔王は離れてベッドまで歩いていき、飛び込んだ。枕に顔を押しあて長い息を吐く。我慢している動作らしい。
いつもサラが寝ているところに魔王が潜り込んで来るので今日は一緒に寝たいと思わない。サラは側にあるイスに座る。
寝転んだままサラを見つめてくる。
「来ないのか?」
「今日は眠れそうにないわ」
「では、本でも読もうか」
さっきサラが読んでいた大人の小説を手に取る魔王。
サラはしゅぱっと本を奪い取る。
「これはさっき読んだから別のにしよ」
「もう読んだのか?じゃあ、こっちにする」
「ちょっと、それは……やめたほうが」
タイトルの一番後ろにハートマークがついている。明らかに大人向けな気がする。
魔王はご丁寧に朗読してくれた。それも今までは気づかなかったけど良い声で。
「やーめーてー」
耳を塞ぎながら今日は絶対に近くで寝るものかと誓う。
天窓から光が射す頃、不覚にもサラは眠ってしまう。
次に起きたとき、いつものようにベッドの上だった。
魔王はもういなかった。
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