第36話

そしてまた穏やかに微笑む男。



(あ、やっぱり、この人の表情...)



こんな穏やかな気持ちを感じたのはどれくらい前だろう。



「ありがとうございます。」



ミオはふわりと笑顔を向けるとその場を後にした。



「どういたしまして。」



その笑顔が偽りなく、自然とこぼれた笑顔だという事を知るのは、それを向けられた男ただ一人だろう。


パンのコーナーを後にすると、安己奈を探して食堂内を見回す。



「芦田。」



すると、ミオの前に立った一人の生徒がいた。



「竹原くん。」



健康的に焼けた肌と短髪の黒髪、爽やかな笑顔と澄んだ眼差しでミオを見つめるのは先程の噂の張本人、竹原涼(たけはら りょう)だった。


周りでは女子生徒達の憧れの眼差しが竹原に注がれている。



「今日は一人なのか?なんなら一緒に昼飯食わねぇ?」


「あ、ごめん。安己奈達と一緒なんだ。」


「立花"達"?」



竹原の声に返答しながら安己奈達を探す。



「ミオー!こっちやでー!」



すると、食堂内に響き渡ったミオを呼ぶ声。生徒達の視線は一気にその声がした方とミオに注がれた。



(ちょっ!?声大きいから!)



声のした方を見ると、窓際のテーブルに着いて恥ずかしげもなくブンブンと手を振る心汰と、それを面白そうに見ながらニヤニヤと笑う安己奈がいた。

どうやら、竹原の存在にも気付いたらしい。



「あんな奴クラスにいたか?しかも、ミオって...」


「あぁ、今日転校して来たの。」


(安己奈、絶対あたしの反応見て面白がってるな。)



注目された鬱陶しさと、恥ずかしさに溜め息を吐きながらミオは安己奈達のいるテーブルに向かって歩を進めた。


「芦田!」

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