第35話

サンドイッチを諦めてその場を立ち去ろうとした時。



「あんた達ー!買うなら買ってさっさと昼ごはん食べなさい!授業に遅れたら承知しないよ!!」



突然聞こえてきたのは年季の入った女性の声。

驚いたミオの足は思わず止まってしまった。



「しづ江さん、落ち着いて。みんなびっくりしちゃうから。」



突如現れたエプロン姿の年配の女性。男になだめられているその人は今までパンの販売をしていた女性だった。



「まったく、タカちゃんが優しいからって困らすんじゃないよ!ほらさっさと行きな!」



女性の勢いに圧され、生徒達は立ち去って行った。



「待たせてごめんね、何にする?」



ハッと気付くと、そこにはミオだけが残っていた。

穏やかに微笑む男。



(あれ。なんか...)



男の表情を見た瞬間、まるで張り詰めていた緊張が解かれるかのように、ミオの胸からはフゥと自然に、柔らかい小さな息がこぼれた。



「あれ?パン買いに来たんじゃないのかな?」



ぼーっと立ち尽くすミオに男が首を傾げる。



「あ、か、買います。えっと、サンドイッチ下さい。たまごサンド。」


「はい、ありがとうございます。」



差し出された袋にはサンドイッチの他に何か入っていた。



「あの、これ頼んでないですけど。」


そこに入っていたのはメロンパン。



「おまけだよ、待たせたお詫び。俺、昨日からここに入ったんだ。よろしくね。」

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