第34話

「なぁ、竹原って?」


「まぁ、その内分かると思うけど。駒草に負けず劣らずのトップがうちにもいるんだよね。」


「トップって?なんや大人しそうな清蘭にも頭張ってるヤツおるん?」


「あー、多分駒草が思ってるトップとはちょっと違うかな。」



安己奈がいたずらな笑みを見せたその時、食堂内がざわざわとし始めた。



「噂をすればってやつだね。」



安己奈の向けた視線の先に、心汰も視線を向ける。

それと同じ時、ミオはパンの販売コーナーの前で立ち尽くしていた。



「お兄さん名前教えてー!」

「何歳ですかー?」

「彼女はいますかー?」



いつもなら10人前後の混み具合で済んでいる、食堂の一角に設けられているパンの販売コーナー。


しかし、今日は30人以上の女子生徒達でごった返していた。

その理由はコーナー内に立つ人物を見た瞬間、理解出来た。



「み、みんな、パン買わないのかな?」


「質問に答えてくれたら、10個買うー。」


「参ったなー。」



そこにいるのは20代前半であろう若い男。緩いパーマのかかった茶髪に、垂れ目がちの優しそうな瞳。

女子生徒達の質問攻めに見せる困り顔は若干幼く見える。


初めて見たその男、それは明らかに"イケメン"の部類だった。


すると、一瞬こちらを見た男がミオに気付くと、"ごめんね、ちょっと待ってね"と申し訳なそうな表情で口を動かした。



(今日はあっちこっちからイケメンが降ってくる日なんだろうか?)

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