第20話

花永はミオに少し隠れるように寄り添うと、ミオの制服の裾を握った。

そんな花永の様子を見ると同時に典子の視界に、ミオの姿が入った。



「花永、"それ"から離れなさい。」



"それ"とは明らかに、ミオを見ての言葉で、高く響いていた声とは一転、眉間を寄せ低く嫌悪感を含んだ典子の声音と視線に、花永は更にミオの背中へと回った。



「母さん!その言い方やめろよ!」


「和季は大丈夫?勉強の邪魔されてない?花永はちゃんと薬飲んでる?」



和季の言葉など耳に入っていないようで、典子は和季の頬を両手で包むと、そのまま抱き締めた。



「和季の邪魔したらただじゃおかないから。それと、花永の薬毎日必ず忘れるんじゃないわよ。それしかあんたの居る意味なんてないんだから。」


「母さん!」


「はい、分かりました。」



咎めようと声を挙げる和季。

しかし、睨み付けるように鋭い視線を向ける典子に、ミオは静かな声で一言、返事をした。



「社長そろそろ...」


「あら、もうそんな時間?」



松本の呼び掛けに、典子は自分の高級時計に目をやる。



「じゃあ、行くわね。花永、ちゃんと薬飲むのよ。和季は勉強し過ぎて体壊さないようにね。」


「...うん。」


「あ、あぁ、母さんも...仕事頑張って。」



俯きながら小さく返事をする花永と困惑を隠せない和季。


典子と松本が出て行き、門を通り過ぎようとした姿がカーテンの隙間から見てとれた。


松本の腕に絡み付き、微笑みながら寄り添う典子。

それはまるで、恋人同士のように見えた。

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